同じテストを2回受けたら、2回目のほうが良い点数になった。こうした場面で、その差を「状態が変わった」と読んでよいのかが、この記事の問いです。結論を先に書くと、同じ課題を繰り返すだけで結果が動くことがあり、これを練習効果と呼びます。変化の原因が練習効果なのか、本当の変化なのかを切り分けないまま数字を読むと、判断を誤ります。
この記事で「練習効果」と呼ぶのは、同じ課題や似た課題を繰り返したことによる、得点や成績の変化です。課題の内容を覚える、解き方のコツをつかむ、検査の形式に慣れる、といった理由で起こります。「学習効果」と呼ばれることもあります。対象は、認知機能の測定方法で整理した紙・タブレット・身体を使う測定のように、人の状態を数値にするものです。
練習効果は、なぜ起こるのか
Calamia らは2012年、神経心理学的な検査で報告された約1,600の効果量をまとめた研究で、練習効果を「検査項目の記憶、身につけた方略、検査への慣れといった要因による得点の上昇」と定義しています。つまり、測りたい能力そのものが変わらなくても、点数は上がりえます。
- 内容を覚える
- 同じ問題や刺激が出ると、前回の記憶が助けになる。
- やり方を身につける
- どう答えれば速く正確に答えられるかという方略を、繰り返すうちに見つける。
- 形式に慣れる
- 操作の仕方や画面、時間配分に慣れ、緊張や戸惑いが減る。
測定の誤差を論じた Atkinson と Nevill も、系統的な偏りの例として学習効果と疲労を挙げています。ランダムなぶれとは違い、練習効果は一定の向きに偏る点が厄介です。測るたびに少しずつ良くなる測定では、時間がたつだけで「改善した」ように見えてしまいます。詳しくは測定の信頼性と妥当性で整理しています。
研究では、どの程度の変化が報告されているか
練習効果の大きさは、課題や対象によって異なります。ここでは、公開されている3つの研究が示していることを、抄録で確認できる範囲で整理します。数値は各研究の対象に限った結果で、そのまま他の測定にあてはめることはできません。
| 研究 | 対象 | 報告されていること |
|---|---|---|
| Calamia ほか(2012年) | 神経心理学的検査の再検査を扱った研究のメタ分析(約1,600の効果量) | 代替版の使用、参加者の年齢、診断、再検査までの間隔が、変化の大きさと関連する場合が多かった |
| Hausknecht ほか(2007年) | 認知能力検査の再受験を扱った50研究(107サンプル、参加者134,436人) | 調整後の全体の効果量は0.26。コーチングが伴う場合と、同一の検査を使った場合に大きかった |
| Beglinger ほか(2005年) | 健康な成人28人に、6週間にわたり神経心理学的検査を繰り返した研究 | 代替版を使っても、ほとんどの検査で得点が上がった。学習は主に最初の3〜4回で起き、課題によって大きさが違った |
Hausknecht らの研究は採用や入試の場面の再受験を扱っています。Beglinger らの研究は、健康な成人にも練習効果が起こることを示しましたが、対象は28人で、治験を想定した設計の一部として行われたものです。いずれも、反応時間の測定そのものを調べた研究ではありません。反応を測る課題で同じ傾向が出るかどうかは、課題ごとに確かめる必要があります。
練習効果は、現場の数字の読み方をどう変えるか
練習効果が問題になるのは、同じ人を繰り返し測って、変化を読む場面です。たとえば、次のような読み違いが起こりえます。

- 2回目の結果が1回目より良かったので、状態が良くなったと考える。実際は、課題に慣れただけかもしれない
- 取り組みの前後で数値が上がったので、取り組みに意味があったと考える。慣れによる上昇と区別できていない
- 1回目の結果が低かった人を、能力が低いと判断する。実際は、操作に戸惑っただけかもしれない
とくに、認知トレーニングの前後で、同じ課題の成績を比べる場合は注意が必要です。トレーニングで使った課題の成績が上がることと、別の課題や日常の場面に広がることは、別の問いだからです。前後の変化が練習効果を超えているかどうかは、練習効果のデータがなければ判断できません。
練習効果を扱うための手順
練習効果をなくすことはできません。そのため、あることを前提に、測定の手順を設計します。Beglinger らの結果は、最初の数回に変化が集中する場合があることを示しており、研究の著者らは、事前の練習を取り入れる方法も有用かもしれないとしています。現場で使いやすい形に直すと、次の4つになります。
- 手順を固定する。説明の仕方、練習の回数、測定の時間帯、姿勢や機器を毎回そろえる
- 本番の前に練習を入れる。操作に慣れる分の変化を、最初に済ませておく
- 同じ条件で複数回測り、最初の数回は基準値に含めない
- 代替版がある場合は使う。ただし、代替版を使えば練習効果がなくなるわけではないと理解しておく
個人の変化を読むときは、同じ人を測り直して通常どの程度ぶれるのかを知っておくことが前提になります。これは信頼性の問題で、反応時間の型(単純反応・選択反応・止める反応)が違えば、練習効果の出方も違う可能性があります。型の異なる結果を並べて変化を読むことはできません。
集団の傾向を見る場合と、個人を見る場合でも、読み方は変わります。全員が同じ条件で同じ回数を経験している集団では、練習効果の影響は全体に均等に出るため、集団の比較には使いやすくなります。一方で、個人の結果を単独で解釈するときは、その人が何回目の測定なのかを必ず併記します。認知機能のどの働きを測る課題かによっても、慣れの影響の受けやすさは異なります。
測定を提供する側に確かめる点も、ここから決まります。練習の回数をどう扱っているか、代替版があるか、繰り返し測定したときの変化のデータが公開されているか、の3点です。これらが示されていない測定で前後比較をするときは、変化の大きさを控えめに読み、同じ条件で測り直した結果と合わせて判断します。1回の差で人や取り組みを評価しないことが、練習効果に対する基本の備えです。
- ※ 本記事は2026年10月時点で公開されている資料にもとづいています。
- ※ 引用した研究の内容は、PubMed の抄録で確認した範囲です。効果量などの数値は、各研究の対象と条件に限った結果であり、他の測定にそのままあてはまるものではありません。
- ※ Hausknecht ほか(2007年)の効果量は、再受験で得点が上がる程度を平均として表したもので、個人の変化の大きさを示すものではありません。
- ※ 測定は状態を数値として把握するためのものであり、疾病の診断や予防、能力の向上を保証するものではありません。結果は健康情報に当たる場合があり、取扱いには本人の同意と事業場内の手続が必要です。
よくある質問
- 練習効果と学習効果は同じものですか。
- この記事では、同じ意味で使っています。同じ課題や似た課題を繰り返したことによる得点や成績の変化を指します。分野や文献によって呼び方が異なるため、読むときは定義を確かめてください。
- 代替版(別の問題)を使えば、練習効果は起きませんか。
- 完全には防げないと報告されています。Beglinger らは、代替版が用意された検査を6週間繰り返した健康な成人28人で、ほとんどの検査で得点が上がったと報告しています。ただし、代替版を使うことで影響が小さくなる場合もあるとされ、課題によって異なります。
- 練習効果は何回目まで続きますか。
- 課題や対象によって異なり、一律には言えません。Beglinger らの研究では、学習は主に最初の3〜4回で起きたと報告されています。自社で使う測定については、同じ条件で繰り返して、どの回から安定するかを確かめるのが確実です。
- 前後で数値が上がったら、取り組みの成果と考えてよいですか。
- それだけでは判断できません。取り組みの効果と、課題に慣れたことによる上昇が重なっている可能性があるためです。練習効果の大きさを把握したうえで、それを超える変化かどうかを見る必要があります。
- 練習効果は、測定の欠点なのですか。
- 欠点というより、繰り返し測る以上は避けられない性質です。あることを前提に、手順を固定する、事前に練習を入れる、最初の数回を基準値に含めない、といった設計で扱います。
出典
- Calamia M, Markon K, Tranel D. Scoring higher the second time around: meta-analyses of practice effects in neuropsychological assessment(The Clinical Neuropsychologist 26巻4号、2012年)(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Hausknecht JP ほか. Retesting in selection: a meta-analysis of coaching and practice effects for tests of cognitive ability(Journal of Applied Psychology 92巻2号、2007年)(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Beglinger LJ ほか. Practice effects and the use of alternate forms in serial neuropsychological testing(Archives of Clinical Neuropsychology 20巻4号、2005年)(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Atkinson G, Nevill AM. Statistical methods for assessing measurement error (reliability) in variables relevant to sports medicine(Sports Medicine 26巻4号、1998年)(外部サイトが新しいタブで開きます)
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