ボールを正確に蹴れるのに試合では迷ってしまう。コーチが指示を出すと動けるのに、自分では動きを選べない。スポーツスクールの指導では、こうした場面によく出会います。技術の反復に加えて、周りを見て自分で決める機会をどう作るかは、多くの指導者に共通する課題です。
この記事では、「見る・判断する」練習を普段のスクールに組み込む方法を整理します。研究で報告されていることと、当社が指導の現場向けに考えた工夫は分けて書きます。特定の練習で競技力が高まると保証するものではなく、取り入れるときの考え方を示すものです。
「見る・判断する」練習とは——この記事での意味
この記事では、次のように言葉を使います。動きの質を高める練習と対立するものではなく、同じ活動の中に判断の要素を足していくイメージです。
- 見る
- ボール、相手、味方、合図など、次の動きを決めるための情報に気づくこと。
- 判断する
- 気づいた情報をもとに、いくつかの選択肢から次の動きを選ぶこと。
- 「見る・判断する」練習
- あらかじめ決めた動きを繰り返すだけでなく、状況に応じて子どもが動きを選ぶ場面を含む練習。
合図に対して決まった動きをする場合と、合図によって動きを選ぶ場合では、求められるものが異なります。この違いは単純反応・選択反応・Go/No-Go の違いで詳しく説明しています。また、動きながら考える課題の全体像は、認知運動とは何かの記事で、当社の用法を含めて整理しています。
研究で報告されていること、まだ言えないこと
取り入れる前に、研究の現状を確かめます。ここでは、若い競技者のチーム競技を対象に複数の研究をまとめた統合分析(メタ分析)を二つ紹介します。どちらも、すでに競技に取り組む選手を対象に、練習を行う群と比較群を比べた研究を集めたものです。
| 論文 | 対象と採用研究 | 報告された結果 | 読むときの注意 |
|---|---|---|---|
| Silva ら(2021年)判断の練習プログラム | 18歳以下のチーム競技の選手。2,497件から6本を採用 | 戦術面では有意な効果(効果量 1.12)。技術の実行では有意差なし(効果量 0.74、p = 0.180) | 研究間のばらつきが大きく、著者も慎重な解釈を求めている |
| Clemente ら(2021年)人数を減らした試合形式の練習 | 18歳未満のチーム競技の選手。803件から6本を採用 | 技術の実行で有意な効果(効果量 0.59、95%信頼区間 0.29〜0.89)。回数の違いによる差は見られなかった | 採用研究に戦術面の結果を測ったものがなく、判断への影響は確かめられていない |
この二つから言えるのは、若い競技者のチーム競技では、判断の要素を含む練習や試合形式の練習について、有望な報告があるということです。一方で、次の点には注意が必要です。
- 採用された研究はそれぞれ6本で、数が多くありません。
- 対象はチーム競技の選手です。個人競技や、運動教室に通い始めたばかりの子ども、未就学児や小学校低学年にそのまま当てはまるとは言えません。
- 試合形式の分析は、けがや病気などの臨床的な状態がない選手を対象にしています。
- いずれも練習の前後や比較群との差を調べたもので、将来の競技成績を予測したり保証したりするものではありません。
以上から、「この練習をすれば判断力が高まる」と約束することはできません。判断の場面を練習に入れることは、指導の幅を広げる選択肢の一つとして捉え、子どもの様子を見ながら調整していくのが現実的です。認知の課題を練習する研究全般の読み方は、認知トレーニングが目指すものでも扱っています。
年代ごとの入り口——まず遊びから、少しずつ試合形式へ
幼児や小学校低学年では、競技の技術より、遊びを通した多様な動きの経験が土台になります。文部科学省の幼児期運動指針は、遊びを中心に多様な動きを経験することを重視しています。こうした考え方については、ゴールデンエイジの考え方と根拠でも整理しました。次の表は、年代ごとの入り口を当社が例として整理したものです。年齢は目安で、経験や成熟の差に合わせて調整してください。
| 目安の年代 | 練習の例 | 難しさの変え方 |
|---|---|---|
| 未就学〜小学校低学年 | 鬼ごっこ、合図で止まる・向きを変える遊び、色や音で動きを選ぶ遊び | 選択肢を2つから3つに増やす、合図を見やすいものから変える |
| 小学校中学年 | 数的有利をつくった小さなゲーム、相手の位置で進む方向を選ぶ課題 | 人数やコートの広さ、ボールに触れる回数の条件を変える |
| 小学校高学年以降 | 人数を減らした試合形式、試合の場面を切り取った課題、映像での振り返り | 判断の時間を短くする、守備の人数を増やす、選手自身に条件を決めさせる |
すぐに使える例として、日本スポーツ協会のアクティブ・チャイルド・プログラムにある「追って、追われて!」があります。4人1組で円周上を同じ方向に走り、前の人の腰の紙テープを取る遊びで、5〜10秒ごとに笛が鳴ると逆向きに走ります。追う側と追われる側が突然入れ替わるため、合図に気づいて動きを切り替える場面が自然に生まれます。1チーム30〜40秒が目安とされ、紙テープの長さを変えて高学年と低学年の差を調整する工夫も紹介されています。必ずしも体力の高い子が勝つとは限らない構造だとされている点も、スクールで使いやすい理由です。
普段の練習への組み込み方——4つの工夫
新しい時間を確保しなくても、いつものメニューに条件を足すことで始められます。以下は当社が指導の現場向けに整理した工夫です。
- ウォームアップに合図を足す。走る、止まる、向きを変えるといった動きに、色や音の合図を組み合わせます。始めは1つの合図に1つの動きを対応させ、慣れたら選択肢を増やします。
- ドリルに「選ぶ」場面を足す。決められた順番で動くだけでなく、守備役の位置を見て左右どちらに進むか選ぶ、といった条件を加えます。
- 人数を減らした試合形式を入れる。一人あたりがボールに関わる回数を増やせるよう、人数やコートの大きさを調整します。ただし試合形式だけで判断の場面が増えるとは限らないため、何を見てほしいのかを事前に短く伝えます。
- 答えを教える前に問いかける。プレーを止めてすぐ正解を伝えるのではなく、「何が見えていた?」「ほかに選べた動きは?」と尋ねます。アクティブ・チャイルド・プログラムも、指導者が一方的に教えるのではなく、子どもの個性と自主性を尊重し「ともに考える」ことの大切さを示しています。
判断を求める課題では、はじめのうちは動きがぎこちなく、失敗も増えがちです。それをミスとして叱ると、子どもは自分で選ぶことを避けるようになるかもしれません。失敗したときは結果よりも、何を見てどう選んだのかを聞くようにすると、挑戦しやすい雰囲気を保てます。また、激しい方向転換が増える場合は、場所の安全確認や用具の点検、休憩の確保など、安全面の配慮も忘れないようにします。
成果の見方と、保護者への伝え方
「見る・判断する」練習の成果は、タイムのように一つの数字では表しにくいものです。次の三つを組み合わせて記録すると、様子を捉えやすくなります。
- 速さと正確さの両方:速くなっても誤りが増えていれば、よくなったとは言い切れません。
- 試合や練習での観察:顔を上げて周りを見る様子、自分から動きを選んだ場面、指示を待たずに動けた回数などです。
- 本人の言葉:何を見ていたのか、どうしてその動きを選んだのかを短く聞き取ります。
数値を比べるときは、同じ課題を同じ条件で行います。繰り返すと課題に慣れて結果がよくなることがあるので、練習効果も考慮します。成熟の速さには個人差があるため、他の子との比較や、才能の有無の判定、チームの選抜に使うのは避けます。
当社の REAXION Kids は、光や音の刺激に反応して身体を動かす形式の課題を遊びとして行うものです。年齢や習熟度に応じて配置とスピードを調整でき、クラス単位の記録と成長の推移を残せます。こうした記録は、運動能力に加えて認知の側面からも子どもを見る指導の観点を増やし、保護者に具体的な様子を伝えるための材料として使うことを想定しています。数値だけで子どもを評価するものではありません。
保護者に伝えるときは、数値だけを渡すのではなく、「先月は声をかけられてから動いていましたが、今月は自分で空いている場所を見つけて動く場面がありました」のように、観察した場面と組み合わせます。あわせて、数値には日によるばらつきがあること、競技での活躍を約束するものではないことも説明しておくと、結果に一喜一憂せずに受け止めてもらいやすくなります。
- ※ この記事は、子どものスポーツ指導に関する一般的な情報を整理したものです。特定の練習や機器によって運動能力や競技力が高まることを保証するものではありません。
- ※ 発育や発達、けがについて心配がある場合は、医師などの専門家に相談してください。
よくある質問
- 何歳から「見る・判断する」練習を始められますか。
- 特定の開始年齢が確かめられているわけではありません。幼児や小学校低学年なら、鬼ごっこや合図で動きを変える遊びのように、遊びの中で判断の場面を経験する形が取り入れやすいでしょう。文部科学省の幼児期運動指針も、遊びを中心に多様な動きを経験することを重視しています。
- 判断の練習をすれば、試合で活躍できるようになりますか。
- そこまでは言えません。18歳以下のチーム競技の選手を対象にした統合分析では、戦術面での効果が報告されていますが、採用された研究は6本と少なく、研究の質にもばらつきがあります。試合での活躍や将来の競技成績を保証するものではなく、指導の選択肢の一つとして捉えるのが適切です。
- 専用の機器がないと実施できませんか。
- 実施できます。色や音の合図を使う遊び、相手の位置で動きを選ぶ課題、人数を減らした試合形式などは、普段の用具で始められます。機器は、同じ条件で課題を繰り返したり、結果を記録して推移を見たりしたい場合に検討するとよいでしょう。
- 人数を減らした試合形式だけで十分ですか。
- 十分とは言い切れません。人数を減らした試合形式の統合分析では、技術の実行についての効果が報告されている一方、採用された研究に戦術面の結果を測ったものはありませんでした。判断の場面を増やしたいときは、何を見るのかを伝える、条件を変える、振り返りで問いかけるといった工夫を組み合わせます。
- 測定結果で選手を選抜してもよいですか。
- 選抜の根拠にすることはおすすめしません。子どもの成熟の速さには個人差があり、課題への慣れによって結果が変わることもあります。測定結果は、その子の変化を本人や保護者と共有し、指導を見直すための材料として使うのが適切です。
出典
- Silva AF, et al. Effects of Training Programs on Decision-Making in Youth Team Sports Players: A Systematic Review and Meta-Analysis. Front Psychol. 2021;12:663867|Frontiers(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Clemente FM, et al. Effects of Small-Sided Game Interventions on the Technical Execution and Tactical Behaviors of Young and Youth Team Sports Players: A Systematic Review and Meta-Analysis. Front Psychol. 2021;12:667041|Frontiers(外部サイトが新しいタブで開きます)
- 幼児期運動指針(平成24年3月)|文部科学省(外部サイトが新しいタブで開きます)
- アクティブ・チャイルド・プログラム「追って、追われて!」|日本スポーツ協会(外部サイトが新しいタブで開きます)
- アクティブ・チャイルド・プログラム「指導のノウハウ」|日本スポーツ協会(外部サイトが新しいタブで開きます)
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