臨床研究とは、人を対象に、病気の原因や経過、治療やケアの影響を調べる研究のことです。そこでは、何を測って結果を判断するかを、研究を始める前に決めておく必要があります。この「結果を判断するための測定項目」を評価指標と呼びます。
この記事でいう反応時間とは、刺激が出てから人が反応するまでの時間を指します。光や音が出たらすぐにボタンを押す単純反応、複数の刺激のうち決められたものだけに反応する選択反応などがあり、種類の違いは反応時間とは——単純反応・選択反応・Go/No-Go の違いで整理しています。ここでは、反応時間が研究の評価指標としてどのように使われているかを、原典の論文の要旨をもとにまとめます。
反応時間が評価指標として使われる理由
反応時間の課題は、次のような性質から、研究の評価指標として扱いやすいとされています。
- 数分から10分程度で終わるため、同じ人に何度も繰り返して行える
- 結果がミリ秒単位の数値で出るため、条件の前後や集団の間で比べやすい
- 言葉や知識への依存が比較的小さく、課題の手順を説明しやすい
- パソコンやタブレットで実施でき、刺激の出し方を毎回そろえやすい
一方で、反応時間は特定の病気だけに反応する数値ではありません。眠気、疲労、課題への慣れ、意欲、機器の違いなど、多くの要因で変わります。研究で使うときは、こうした要因をそろえたうえで、条件の違いによる変化を取り出す設計にします。以下では、代表的な3つの場面を順に見ていきます。
| 場面 | 主な課題と指標 | 原典で報告されていること |
|---|---|---|
| 睡眠不足の研究 | 精神運動覚醒検査(PVT)。見逃しの回数、反応の速さ | 健康な成人74人の実験で、見逃しや反応の速さの指標は睡眠不足を大きくとらえ、平均値や中央値はとらえにくかった |
| 脳しんとうの研究 | 単純反応・選択反応の課題。受傷前や非受傷者との比較 | 60件の研究の統合で、受傷後0〜3日に中程度の遅れがあり、21〜59日の時期まで差が残っていた |
| 加齢・認知機能の研究 | 複数回の反応のばらつき(同じ人の中での一貫性) | 高齢者は若年者より反応のばらつきが大きく、ばらつきは記憶や知覚の速さなどの成績と関連していた |
睡眠不足の研究——指標の選び方で感度が変わる
睡眠の研究で広く使われているのが、精神運動覚醒検査(PVT)です。画面にランダムな間隔で数字が出たら、できるだけ早くボタンを押す課題を一定時間続けます。注意を保ち続ける力(持続的注意)をみる課題で、注意の種類については注意機能とはで扱っています。
Basner と Dinges(2011年)は、22〜45歳の健康な成人74人を対象に、33時間起き続ける実験(31人)と、5晩続けて床に就く時間を4時間にする実験(43人)を行い、10分間の PVT を2時間ごとに実施しました。そのうえで、10種類の指標について、睡眠不足の状態をどれだけ大きくとらえられるかを効果量で比べています。効果量とは、条件による差の大きさを、ばらつきを基準にした共通の尺度で表した値です。
結果は、見逃し(反応が大きく遅れた回数)にかかわる指標と、反応の速さ(反応時間の逆数)にかかわる指標で効果量が大きく、徹夜の実験で1.59〜1.94、睡眠を短くした実験で0.88〜1.21でした。反対に、最もよく使われてきた反応時間の平均値や中央値は、極端な値に引きずられ、効果量は小さいから中程度にとどまりました。著者らは、平均値や中央値を覚醒度の主な評価指標にすることは避けるべきだと述べ、比較しやすくするための PVT の標準化の基準を提案しています。
睡眠不足が認知のどの側面に影響するかをまとめた研究もあります。Lim と Dinges(2010年)は、48時間未満の徹夜の影響を調べた70件の論文、147の検査を統合し、6つの認知領域で効果の大きさを比べました。最も大きかったのは単純な注意課題での見逃し、最も小さく統計的に意味のある差がなかったのは推論の正確さでした。反応時間を使う単純な注意の課題が、睡眠不足の影響を受けやすい指標であることを示す結果です。職場での夜勤との関係は夜勤・交代勤務が反応と判断に与える影響で扱っています。
脳しんとうの研究——受傷後の経過を追う
スポーツ医学では、脳しんとうの後に反応が遅れることが報告されており、反応時間は回復の経過をみる評価の一つとして使われています。Lempke らは2020年に、2002年から2019年3月までに英語で発表された60件の研究(参加者の合計9,688人)を統合しました。
その結果、受傷後0〜3日の時期に、受傷していない人と比べても、同じ人の受傷前と比べても、中程度の大きさの反応の遅れがみられました。遅れは21〜59日の時期まで残っており、それより後の時期では、受傷していない人との間に統計的に意味のある差はみられませんでした。また、検査に使ったコンピューターの検査の種類によって、遅れの大きさが異なっていました。著者らは、受傷前の測定値と比べた場合と、受傷していない人と比べた場合で差が小さかったことから、受傷前の測定値が受傷後の判断に加える価値は小さい可能性があるとも述べています。
コンピューターを使わない方法もあります。Eckner らは2011年に、重りのついた棒を落として、つかむまでの距離から反応時間を求める方法を、大学の運動選手102人で2シーズン続けて測りました。シーズン間の一致の度合い(級内相関係数)は、この方法で0.645、同時に行ったコンピューターの単純反応の課題(62人)で0.512でした。1年近くあけて同じ人を測ると、数値はある程度変わるということでもあります。数値の安定性の考え方は測定の信頼性と妥当性で整理しています。
加齢と認知機能の研究——平均だけでなく、ばらつきを見る
加齢の研究では、反応の平均的な速さに加えて、同じ人が何度も反応したときのばらつきが注目されてきました。Hultsch らは2002年に、17〜36歳の99人と54〜94歳の763人に4種類の反応時間課題を行い、ばらつきを比べました。高齢の参加者のほうが、反応の速さの差を統計的に調整したあとでも、同じ人の中でのばらつきが大きいという結果でした。また、ばらつきが大きい人ほど、知覚の速さ、ワーキングメモリ、エピソード記憶などの成績が低い傾向があり、ばらつきは平均的な速さとは別に、認知機能の成績と関連していました。
Dixon らは2007年に、64歳以上の高齢者を対象とした2つの研究(416人と304人)で、反応の速さとばらつきが、年齢の群や、認知機能の低下の有無による群を区別できるかを調べました。どちらの指標も群の違いと関連しており、ばらつきが平均的な速さに加えて群の違いを説明する傾向は、控えめなものでした。著者らは、速さとばらつきが認知機能の低下の先行的な手がかりになりうると論じています。
ここで押さえておきたいのは、これらが集団の傾向を示した研究だという点です。ばらつきが大きいことが、ある人の認知機能の低下を意味するわけではありません。認知機能の変化を記録で追う考え方は認知機能の「変化」に気づくにはで、医療で使われる検査の全体像は医療で使われる認知機能検査の種類と目的で扱っています。
研究結果を読むときに確かめたいこと
反応時間を使った研究を読むときは、次の点を確かめると、結果を過大にも過小にも受け取らずにすみます。
- どの指標を使ったか。平均値、中央値、見逃しの回数、遅い反応の割合、ばらつきでは、同じ課題でもとらえやすさが違う
- 課題の長さと種類。10分の課題と短い課題、単純反応と選択反応では結果が変わりうる
- 対象者と人数。健康な若い成人の実験室での結果が、高齢者や患者に同じように当てはまるとは限らない
- 比べた相手。同じ人の前後か、別の集団か
- 練習の影響。同じ課題を繰り返すと、慣れによって速くなる練習効果が生じうる
- 機器の違い。画面やボタンの応答の遅れは機器ごとに違い、異なる機器の数値はそのまま比べられない
研究で示された差は、条件をそろえた集団の比較から得られたものです。一人の一回の測定値で、睡眠不足や脳しんとう、認知機能の低下を判断することはできません。医療の場で反応時間が使われるときも、問診や診察、ほかの検査と合わせて医師が解釈します。
当社の REAXION は、見る・認知する・判断する・動くという一連の反応を記録し、同じ条件での推移を確認できるようにする仕組みです。医療機器ではなく(REAXION CARE の TAIS への登録は、福祉用具としての登録です)、病気の診断や発見に使うものではありません。記録の中で気になる変化があったときは、医療機関に相談するきっかけとして扱うのが適切な使い方です。
- ※ 本記事は2026年11月時点で公開されている論文の要旨にもとづいています。
- ※ 各研究の対象・課題・指標は異なるため、研究同士の数値を直接比べることはできません。
- ※ 脳しんとうの統合研究は英語で発表された論文に限っています。
- ※ 本記事は医学的な診断や助言に代わるものではありません。
よくある質問
- 臨床研究で反応時間が使われるのはなぜですか。
- 数分から10分程度で終わり、同じ人に繰り返し行えること、結果がミリ秒単位の数値で出て比べやすいことが主な理由です。睡眠不足の影響をみる研究、脳しんとう後の経過を追う研究、加齢と認知機能の研究などで使われています。
- 反応時間は平均値で比べればよいのですか。
- 目的によります。睡眠不足を調べた研究では、反応時間の平均値や中央値は極端な値に引きずられ、見逃しの回数や反応の速さの指標のほうが睡眠不足の影響を大きくとらえたと報告されています。加齢の研究では、平均とは別に、反応のばらつきが認知機能の成績と関連していました。
- 脳しんとうの後、反応時間はいつごろ元に戻りますか。
- 60件の研究を統合した論文では、受傷後0〜3日に中程度の遅れがあり、21〜59日の時期まで差が残り、それより後の時期では受傷していない人との差はみられなかったと報告されています。これは集団の傾向で、個人の回復の判断は医師が行います。
- 反応時間を測れば、認知機能の低下が分かりますか。
- 分かりません。研究では、反応の遅さやばらつきが認知機能の低下がある群と関連することが示されていますが、集団の比較の結果です。一人の測定値だけで認知機能の低下を判断することはできず、診断は医師が問診や他の検査と合わせて行います。
出典
- Basner M, Dinges DF. Maximizing sensitivity of the psychomotor vigilance test (PVT) to sleep loss (2011)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Lim J, Dinges DF. A meta-analysis of the impact of short-term sleep deprivation on cognitive variables (2010)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Lempke LB, et al. Examination of Reaction Time Deficits Following Concussion: A Systematic Review and Meta-analysis (2020)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Eckner JT, et al. Between-seasons test-retest reliability of clinically measured reaction time (2011)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Hultsch DF, et al. Variability in reaction time performance of younger and older adults (2002)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Dixon RA, et al. Neurocognitive markers of cognitive impairment: exploring the roles of speed and inconsistency (2007)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
関連するサービス




