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「9〜12歳は運動神経が伸びるゴールデンエイジ」とよく言われます。その根拠はどこまで確かで、どこからが言い過ぎなのかを、一次資料に戻って確かめます。

こどものスポーツスクール

スポーツスクールや少年団の案内、子育ての記事では、「ゴールデンエイジ」という言葉をよく目にします。「この時期に運動神経が決まる」「逃すと取り返せない」といった強い表現もあり、保護者や指導者が焦りを感じる場面も少なくありません。

この記事では、ゴールデンエイジの考え方を、根拠として使われている資料と、その資料からは言えないことに分けて整理します。そのうえで、文部科学省の幼児期運動指針などの公的な資料が何を勧めているかを確認し、指導の現場や家庭で何を大切にすればよいかを考えます。

ゴールデンエイジとは——よく言われる内容と、この記事での用語

ゴールデンエイジは、子どもが新しい動きを見てすぐにまねできる、動きの習得に特に適した時期を指す言葉として使われています。その前の時期を「プレ・ゴールデンエイジ」、後の時期を「ポスト・ゴールデンエイジ」と呼ぶ説明もよく見られます。

注意したいのは、年齢の区切りが一定していないことです。自治体が配布している子ども向け運動の資料を見ても、ゴールデンエイジを5〜12歳ごろとするものもあれば、9〜12歳ごろとするものもあります。用語の出どころや定義を一次資料で示している説明は多くありません。つまり、ゴールデンエイジは一つの理論というより、子どもの発育について知られていることをもとに広まった指導上の考え方だと捉えるのが妥当です。

この記事では、用語を次のように使います。

発育
身長や臓器の大きさなど、身体の形の変化。
発達
動きの上手さや判断の速さなど、身体の働きの変化。
運動能力
走る・跳ぶ・投げるといった体力的な要素に加えて、タイミングや力の加減を調整する力、状況を見て動きを選ぶ力まで含めた、動きの総合的な力。

発育と発達の使い分けは、体育・スポーツ分野で一般的な用法に合わせています。運動能力に「見て判断する」部分を含めるのは、球技や鬼ごっこのように、相手やボールの動きに反応して動く場面が子どもの運動の大半を占めるためです。反応の種類については反応時間の種類と違いで詳しく扱っています。

根拠として挙げられるスキャモンの発育曲線

ゴールデンエイジの説明でほぼ必ず登場するのが、米国の解剖学者スキャモン(R. E. Scammon)が1930年に示した発育曲線です。身体の各器官の発育を、20歳時を100%としたときの割合で表し、四つの型に分けました。

型主な器官発育の特徴ゴールデンエイジ論での使われ方
一般型身長・体重、筋肉、骨、内臓など乳幼児期と思春期の2回、大きく伸びる筋力や持久力は思春期以降に伸ばす、という説明に使われる
神経型脳、脊髄、感覚器など幼児期に急速に発育し、早い時期に成人に近づく動きの習得は神経型が成人に近づく時期に適している、という説明に使われる
リンパ型胸腺、リンパ節など思春期前後に成人を上回り、その後下がるあまり使われない
生殖型精巣、卵巣、子宮など思春期まではほとんど変わらず、思春期に急に大きくなるあまり使われない

神経型が早く成人に近づくこと自体は、日本人のデータでも確かめられています。日本アスレティックトレーニング学会誌に掲載された総説(飯田、2018年)は、法医解剖例の臓器計測値をもとに、脳の重量が1歳で20歳時の約77%、5〜6歳で90%以上に達すると紹介しています。生後の脳の重量の増加は神経細胞の数が増えるためではなく、主にグリアと呼ばれる細胞の増加によるもので、その一部が神経の軸索に巻き付く髄鞘化によって、情報の伝わる速さが大きく増すとされています。

文部科学省の幼児期運動指針(2012年)も、幼児期は神経機能の発達が著しく、タイミングよく動いたり、力の加減をコントロールしたりするなど、運動を調整する能力が顕著に向上する時期だと述べています。神経系が早い時期に発育し、その時期に動きを調整する力が大きく変わること。ここまでは、公的な資料と研究で裏付けがあると言えます。

根拠の限界——発育曲線から言えること、言えないこと

一方で、ゴールデンエイジの説明でよく見る「だからこの時期に練習すれば上達しやすい」「この時期を逃すと伸びない」という主張は、発育曲線から一歩先に進んだ解釈です。少なくとも次の四つの点で、根拠と主張の間に距離があります。

  1. 発育曲線が示しているのは、器官の重さや大きさの変化です。ある年齢で練習したときの上達の速さを測ったものではありません。脳の重量が成人に近づくことと、動きを覚えやすいことは、同じではありません。
  2. 四つの型の分け方自体が大まかです。先の総説では、スキャモンの曲線で同じリンパ型に入れられている胸腺と甲状腺が、実際にはやや異なる発育パターンを示すことが指摘されています。曲線は全体の傾向をつかむ図であり、細かい年齢の区切りを決める根拠にするには粗すぎます。
  3. 神経系の中でも、発達の時期は領域によって異なります。同じ総説によると、一次視覚野などの感覚に関わる領域の髄鞘化は比較的早い一方、思考に関わる前頭前野の髄鞘化は青年期まで続きます。状況を見て判断する力は、小学生の時期で完成するわけではありません。
  4. 成熟の速さには、性別や個人で差があります。身長が最も伸びる年齢は、平均で男子が女子より1〜2年遅いとされ、同じ学年でも生物学的な成熟度は子どもによって異なります。暦年齢で「何歳から何歳」と一律に区切ると、早熟な子と晩熟な子の両方を取りこぼします。

海外でも同じ議論があります。英国では、子どもの発育段階ごとに鍛えるべき能力を示した長期競技者育成(LTAD)モデルが広く採用され、特定の能力を伸ばしやすい「好機の窓」という考え方が含まれていました。これに対し、Fordら(2011年、Journal of Sports Sciences)は、このモデルには実証的な根拠が不足しており、根拠となったデータは疑問のある前提や方法に依拠していると指摘しました。個人に合わせた計画ではなく一般的なモデルにすぎないので、検証と修正を続ける「作業中のもの」として扱うべきだとしています。

まとめると、「幼児期から学童期は神経系の発育が早く、動きを調整する力が大きく変わる時期である」という部分には根拠があります。しかし「特定の年齢の窓があり、そこを逃すと伸びない」という部分は、現時点では確かめられていません。

国の指針は何を勧めているか——幼児期運動指針とアクティブ・チャイルド・プログラム

では、公的な資料は子どもの運動について何を勧めているのでしょうか。文部科学省の幼児期運動指針は、子どもの体力・運動能力の低下が指摘されていることを背景に、2012年に策定されました。ここでは「何歳までに何を」という窓ではなく、動きの経験の幅が重視されています。

  • 動きの獲得には「動きの多様化」(年齢とともに獲得する動きが増えること)と「動きの洗練化」(基本的な動きの仕方が上手になっていくこと)の二つの方向があるとしています。
  • 3〜4歳は基本的な動きが未熟ながら一通りできるようになり、4〜5歳はそれまでに経験した動きが定着しはじめ、5〜6歳は無駄な動きや力みが少なくなり動き方が上手になっていく時期だと整理しています。
  • 毎日、合計60分以上、楽しく体を動かすことが望ましいとしています。園や保育所だけでなく、家庭や地域での活動も含めた1日の合計です。

学齢期については、文部科学省が日本体育協会(現・日本スポーツ協会)に委託して、子どもが発達段階に応じて身につけておくことが望ましい動きや身体を操作する能力を高めるための運動プログラム「アクティブ・チャイルド・プログラム」を作成しています。ここでも、鬼ごっこや遊びを通じて多様な動きを経験させることが中心に置かれています。

二つの資料に共通するのは、特定の競技の技術を早く仕込むことではなく、遊びを中心に多くの種類の動きを経験させることを勧めている点です。ゴールデンエイジという言葉を使うかどうかにかかわらず、この方向性は根拠のある部分と矛盾しません。

指導の現場と家庭でできること——「時期」より「経験の幅」と「記録」

ここまでの整理を踏まえると、子どもの運動について大切にしたいことは、年齢の窓を気にすることよりも次の三つだと考えられます。

一つ目は、動きの種類を広げることです。走る・跳ぶ・投げるに加えて、相手の動きを見てよける、合図に合わせて止まる、ボールの行方を予測して動くといった、見て判断する要素を含む遊びも経験させます。米国小児科学会の臨床報告(2016年)は、一つの競技への専門化が早すぎると、身体面と心理面の両方に不利益が生じうると述べています。一つの競技に絞る前に、幅広い動きを経験する時間を確保することには意味があります。

二つ目は、他の子と比べるのではなく、その子自身の変化を見ることです。成熟の速さには個人差があるため、同じ学年でも体格や動きの完成度は大きく異なります。ある時点の結果で「運動神経がよい・悪い」と判断せず、同じ子の数か月後、1年後と比べるほうが、成長の様子を正しく捉えやすくなります。

三つ目は、変化を記録として残すことです。記録を比べるときは、同じ課題を同じ条件で行うことが前提になります。また、同じテストを繰り返すと、課題に慣れたことによって結果がよくなる場合があります。この点は練習効果とは何かで解説しています。数値の変化を見るときには、慣れによる変化と成長による変化を区別して読む必要があります。

当社の REAXION Kids は、光や音の刺激に反応して身体を動かす形式の課題で、見る・判断する・動くという一連の流れを、遊びとして取り組みながら測定し、記録を残せるようにしたものです。こうした測定は、才能の有無を判定するためではなく、その子の変化を本人や保護者と共有するための手がかりとして使うのが適切だと私たちは考えています。考える要素と動く要素を同時に扱う課題については、認知運動とは何かもあわせてご覧ください。

  • ※ この記事は、子どもの運動の発達に関する一般的な情報を整理したものです。特定の運動やトレーニングによって運動能力が向上することを保証するものではありません。
  • ※ 発育や発達に心配がある場合は、小児科などの専門家に相談してください。

よくある質問

ゴールデンエイジは何歳ですか。
決まった定義はありません。9〜12歳ごろとする説明が多く見られますが、自治体の資料でも5〜12歳ごろとするものと9〜12歳ごろとするものがあり、区切りは一定していません。学術的に確立した年齢の範囲があるわけではないので、目安程度に受け止めるのが妥当です。
ゴールデンエイジを過ぎると、運動能力は伸びないのですか。
そう言える根拠は確認されていません。幼児期から学童期に神経系の発育が早く進むことは確かですが、それは「特定の年齢を逃すと伸びない」ことを示すものではありません。英国の長期競技者育成モデルの「好機の窓」という考え方についても、実証的な根拠が不足していると指摘されています。また、判断に関わる脳の領域の発達は青年期まで続くとされています。
スキャモンの発育曲線とは何ですか。
米国の解剖学者スキャモンが1930年に示した図で、身体の器官の発育を20歳時を100%とした割合で表し、一般型・神経型・リンパ型・生殖型の四つに分けたものです。神経型が幼児期に早く成人に近づくことを示しており、ゴールデンエイジの根拠としてよく使われます。ただし、器官の大きさの変化を表した図であり、練習による上達のしやすさを測ったものではありません。
幼児はどのくらい体を動かせばよいですか。
文部科学省の幼児期運動指針は、毎日、合計60分以上、楽しく体を動かすことが望ましいとしています。園や保育所での活動だけでなく、家庭や地域での遊びも含めた1日の合計です。特定の運動を決まった時間行うことよりも、遊びを通じて多様な動きを経験することが重視されています。
子どもの運動能力の伸びは、どう確かめればよいですか。
他の子との比較ではなく、同じ子の結果を時期を空けて比べる方法が適しています。成熟の速さには個人差があるためです。比べるときは同じ課題を同じ条件で行い、繰り返すことで課題に慣れて結果がよくなる練習効果があることも考慮します。

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