病院のもの忘れ外来や認知症の診療では、いくつもの認知機能検査が使われます。名前を聞いたことはあっても、それぞれが何を調べ、どのような判断に使われているのかは、外からは分かりにくいものです。
この記事では、検査を開発・検証した論文と、MCIの診断基準をまとめた論文をもとに、医療で使われる認知機能検査の種類と目的を整理します。ここでいう認知機能検査とは、質問や課題への回答から、記憶・注意・言語・遂行機能などの働きを評価する検査を指し、画像検査や血液検査は含めません。遂行機能とは、計画を立て、手順を切り替えながら物事を進める働きのことです。認知機能という語の範囲については別の記事で扱っています。
医療の認知機能検査は、目的で3つに分かれる
医療での認知機能検査は、何を決めるために行うかで性格が変わります。大きく分けると次の3つです。
| 種類 | 主な目的 | 例 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| スクリーニング検査 | 認知機能の低下が疑われるかを、短時間でふるい分ける | MMSE、HDS-R、MoCA-J | 短時間で行える。どの領域がどう低下しているかを詳しく見るものではない |
| 神経心理検査 | 記憶、遂行機能、言語、注意、視空間認知など、どの領域がどの程度低下しているかを調べる | 単語の学習と時間をおいた再生、物語の再生、トレイルメイキングテスト、語の流暢性 | 時間がかかるが、低下している領域の特徴が分かる |
| 重症度・生活機能の評定 | 認知症の程度や、日常生活がどこまで自立しているかを評定する | CDR(臨床的認知症尺度)、本人や家族からの生活状況の聞き取り | 検査用紙の点数だけでなく、生活の様子を含めて評価する |
これらは互いに置き換えるものではなく、組み合わせて使われます。たとえば、米国国立老化研究所とアルツハイマー病協会の作業部会(NIA-AA)が2011年に示したMCIの診断基準は、本人や家族、臨床医が以前からの変化に懸念を持っていること、一つ以上の認知領域で年齢や教育歴から期待されるより低い成績があること、日常生活の自立が保たれていること、認知症ではないこと、の4点を挙げています。2点目は検査で、3点目と4点目は生活の評価で確かめるものです。
同じ基準は、認知機能の低下を説明しうるほかの原因(血管性、外傷性、その他の身体の病気など)を可能な範囲で除外する必要があるとし、そのための補助的な検査として、画像検査、臨床検査、神経心理検査を挙げています。認知機能検査は診断の材料の一つであり、それだけで原因や病名が決まるわけではありません。
スクリーニング検査——MMSE・HDS-R・MoCA-J
MMSEは、1975年に米国の Folstein らが発表した検査です。論文の題名は、臨床医が患者の認知状態を段階づけるための実用的な方法であることを示しています。短い時間で認知状態の目安を得るための検査です。HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)は日本で開発された検査で、後で述べるMoCA-Jの検証研究でも比較の対象として使われています。
MoCAは、MCIを見つけることを目的に、2005年にカナダの Nasreddine らが発表した10分程度のスクリーニング検査です。開発時の研究では、MCIの94人、軽度のアルツハイマー病の93人、健常な高齢者90人の全員にMMSEとMoCAの両方を行いました。区切りの点数を26点としたとき、MCIを検出できた割合(感度)は、MMSEが18%、MoCAが90%でした。論文はMoCAを、MMSEでは正常範囲の成績を示す人のなかからMCIを見つける検査として位置づけています。
日本語版のMoCA-Jは、2010年に藤原らが信頼性と妥当性を検証しています。結果を表にまとめます。
| 研究 | 対象 | MCIの検出に関する主な結果 |
|---|---|---|
| Nasreddine ほか(2005年) | MCI 94人、軽度アルツハイマー病 93人、健常な高齢者 90人 | 区切り26点で、感度はMMSE 18%、MoCA 90%。特異度はMMSE 100%、MoCA 87% |
| 藤原ほか(2010年) | もの忘れ外来または地域の健診で集めた96人(軽度アルツハイマー病 30人、MCI 30人、健常 36人) | MoCA-Jは区切り25/26点で感度93.0%、特異度87.0%。MCIの判別の指標(曲線下面積)はMoCA-J 0.95、MMSE 0.85、HDS-R 0.86。8週間後の再検査との一致度(級内相関係数)は0.88 |
ここで注意したいのは、これらの数値が、診断がついた人と健常な人をあらかじめ集めて比べた研究のものだという点です。対象はそれぞれ百人程度から三百人弱で、地域で幅広い人に行ったときに同じ精度になるとは限りません。感度と特異度は、区切りの点数をどこに置くかによっても変わります。スクリーニング検査の点数は「詳しい評価に進むかどうか」を考える材料であり、診断そのものではありません。
神経心理検査——領域ごとに詳しく調べる
スクリーニング検査で気になる結果が出たときや、どの領域がどのように低下しているかを知りたいときには、領域ごとの神経心理検査が使われます。NIA-AAの基準の論文は、評価すべき領域と検査の例として、次のようなものを挙げています。
- 記憶:直後の再生と、時間をおいた再生の両方をみる。単語のリストを何度か聞いて覚える検査、短い物語を聞いて再生する検査(ウェクスラー記憶検査改訂版の論理的記憶など)、図形を見て再生する検査など
- 遂行機能:課題の切り替え、推論、問題解決、計画。例としてトレイルメイキングテスト
- 言語:物の名前を言う課題(呼称)、決められた文字やカテゴリーで始まる語をできるだけ多く挙げる課題(語の流暢性)
- 視空間認知:図形の模写
- 注意:聞いた数字の列をそのまま繰り返す課題(数唱)
記憶の検査で直後と時間をおいた再生の両方を見るのは、覚える段階で課題に注意を向けられていたかを確かめ、それを基準にどれだけ保持されたかを比べるためだと説明されています。論文は、アルツハイマー病による認知症に進んでいくMCIの人では、新しい情報を覚えて保持する記憶の低下が最もよくみられるとしています。
正式な検査が難しい場合には、診察の場で住所を覚えてもらい数分後に思い出してもらう、といった簡単な方法もあります。ただし同じ論文は、こうした簡易な方法はMCIの初期の微妙な変化には鈍く、正常な結果になることが多いこと、また記憶以外の領域はほとんど評価できないことに注意を促しています。
研究の場では、こうした検査を組み合わせて使います。たとえばMCIの経過を追った米国メイヨー・クリニックの研究(Petersen ほか、1999年)では、MMSEに加えて、ウェクスラー成人知能検査改訂版、ウェクスラー記憶検査改訂版、単語の学習と再生の検査などを組み合わせ、MCIの人と健常な人の主な違いが記憶の領域にあることを示しました。
重症度と生活機能の評定——検査用紙の外を見る
CDR(臨床的認知症尺度)は、認知症の程度を評定するための尺度で、1993年に Morris が現行版と採点の規則をまとめています。前述のMoCA-Jの検証研究でもMMSEやHDS-Rとともに用いられ、MoCA-Jの点数との相関(相関係数 −0.79)が報告されています。点数が高いほど良いMoCA-Jと、評定が高いほど程度が重いCDRなので、相関は負の値になります。
生活機能の評価が欠かせないのは、MCIと認知症を分ける線が、日常生活の自立にあるためです。NIA-AAの基準は、MCIの人は支払い、食事の用意、買い物など、以前できていた複雑な作業で軽い困難を抱えることが多いものの、最小限の助けで自立は保たれている、と説明しています。この判断には、その人のいまの生活の水準を知る必要があり、基準の論文自身も難しさを認めています。そのため、本人だけでなく、本人をよく知る家族などからの聞き取りが重要になります。
検査結果を読むときの注意——年齢・教育歴・繰り返し
NIA-AAの基準の論文は、検査結果の読み方について、いくつかの注意を明記しています。
- ほぼすべての認知機能検査は、年齢、教育歴(読み書きの経験)、文化の違いの影響を受ける。年齢や教育歴ごとの基準値がある検査もあるが、90歳以上の人の基準値をもつ検査は少ない
- MCIの人の検査成績は、同じ年齢・教育歴の人の平均より1〜1.5標準偏差ほど低いことが多い。ただしこれは目安であり、区切りの点数ではない
- 経過を追った評価は、診断の確かさを高め、治療への反応をみるうえでも重要である。ただし実際には、経過の情報がないまま診断が必要になることも多い
経過を比べるときには、別の注意も要ります。同じ検査を繰り返すと、課題に慣れて成績が上がる練習効果が生じることがあります。前回と同じ検査を同じ条件で行ったか、前回からどのくらい間があいたかも合わせて見る必要があります。数値をどこまで信じてよいかの考え方は測定の信頼性と妥当性で整理しています。
医療の検査と、医療の外で行う測定の違い
認知機能を数値でとらえる道具は、医療の外にもあります。たとえば75歳以上のドライバーが運転免許の更新時に受ける認知機能検査について、警察庁は、受検者の記憶力や判断力の状況を確認するための簡易な手法であり、医師の行う認知症の診断や医療検査に代わるものではないと明記しています。
医療の検査は、医師が診断や治療方針を決めるための材料として、決められた手順で実施され、ほかの情報と合わせて解釈されます。医療の外での測定は、健康づくりや介護、安全管理などの目的で状態を記録するものです。どちらが優れているかではなく、目的が違います。医療の外で使われる方法も含めた全体像は認知機能の測定方法の種類と選び方で扱っています。
当社の REAXION も医療の外の道具です。反応速度、判断、短期記憶にかかわる課題で反応を記録し、同じ条件での推移を比べられるようにするもので、医療機器ではありません(REAXION CARE の TAIS への登録は、福祉用具としての登録です)。MCIや認知症の診断や発見に使うことはできません。記録の中で気になる変化があったときは医療機関に相談するきっかけとして扱い、その先の判断は医師に委ねるのが適切な使い方です。
- ※ 本記事は2026年10月時点で公開されている資料にもとづいています。
- ※ 検査の数値は、各検査を開発・検証した論文の要旨によります。研究の対象や方法が異なるため、数値を直接比べることはできません。
- ※ 日本神経学会の認知症疾患診療ガイドラインにも検査の解説がありますが、執筆時点で学会のウェブサイトに接続できず、本記事の根拠には含めていません。
- ※ 本記事は医学的な診断や助言に代わるものではありません。検査の実施と解釈、診断は医師が行います。
よくある質問
- MMSEとMoCA-Jの違いは何ですか。
- どちらも短時間で行うスクリーニング検査ですが、MoCAはMCI(軽度認知障害)を見つけることを目的に開発されました。開発時の研究では、区切り26点でMCIを検出できた割合がMMSEは18%、MoCAは90%でした。日本語版MoCA-Jの検証研究でも、MCIの判別の指標はMoCA-Jが0.95、MMSEが0.85と報告されています。ただし研究の対象は百人から三百人弱で、地域の幅広い人に同じ精度が出るとは限りません。
- 認知機能検査の点数が低ければ、認知症と診断されますか。
- 点数だけでは診断されません。診断には、以前からの変化があるか、日常生活が自立しているか、認知機能の低下を説明するほかの原因がないかを確かめる必要があり、画像検査や臨床検査、生活状況の聞き取りなどと合わせて医師が判断します。検査の成績は年齢や教育歴の影響も受けます。
- 神経心理検査とは何ですか。
- 記憶、遂行機能、言語、視空間認知、注意などの領域ごとに、どこがどの程度低下しているかを詳しく調べる検査です。たとえば記憶では、単語のリストを覚えて直後と時間をおいて思い出す検査、遂行機能ではトレイルメイキングテストなどが使われます。スクリーニング検査より時間はかかりますが、低下の特徴が分かります。
- 同じ検査を繰り返すと、結果は変わりますか。
- 変わることがあります。課題に慣れて成績が上がる練習効果が生じるためです。経過を比べるときは、同じ検査を同じ条件で行ったか、前回からどのくらい間があいたかも合わせて見ます。MCIの診断基準の論文は、経過を追った評価が診断の確かさを高めるとしています。
- 病院以外で受ける認知機能のチェックは、医療の検査の代わりになりますか。
- なりません。たとえば運転免許の認知機能検査について、警察庁は医師の行う認知症の診断や医療検査に代わるものではないと明記しています。当社のREAXIONも医療機器ではなく、反応を記録して推移を確認するための仕組みです。気になる変化があれば医療機関に相談してください。
出典
- Folstein MF, et al. "Mini-mental state" (1975)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Nasreddine ZS, et al. The Montreal Cognitive Assessment, MoCA (2005)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Fujiwara Y, et al. Validation of the Japanese version of the Montreal Cognitive Assessment (2010)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Albert MS, et al. The diagnosis of mild cognitive impairment due to Alzheimer's disease (2011) 全文|PubMed Central(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Petersen RC, et al. Mild cognitive impairment: clinical characterization and outcome (1999)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Morris JC. The Clinical Dementia Rating (CDR): current version and scoring rules (1993)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
- 認知機能検査について|警察庁(外部サイトが新しいタブで開きます)
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