本文へスキップ
SmartStartSmartStart

Measurement

注意力が高い・低いと言う前に、どの注意の話かを分ける。3つの分け方と、それぞれの測り方の違いを整理します。

測定とデータ

「注意力が落ちている」「集中力がない」という言い方は日常でよく使われますが、何が落ちているのかは、この言葉だけでは分かりません。まわりの音に気を取られているのか、長く続けられないのか、二つのことを同時にこなせないのか。原因が違えば、測り方も、見直す点も変わります。この記事の問いは、注意機能をどう分けて考えれば、測定の結果を読み違えないか、です。

この記事で「注意機能」と呼ぶのは、多くの情報の中から必要なものを選び、必要な間それを保ち、複数のことに振り分ける働きの総称です。認知機能の中で、ほかの領域を支える土台にあたります。ここでは、現場で整理しやすいように、選択的注意・持続的注意・分配的注意の3つに分けて説明します。この3つの区別は、記事の整理のための分け方で、研究の世界で唯一のものではありません。

注意機能を3つに分けて考える

3つは、注意に求められる「問い」の違いとして捉えると分かりやすくなります。

選択的注意(何を選ぶか)
必要な情報を選び、それ以外を除く働き。騒がしい場所で一人の声を聞き取る、棚の中から目当ての品を探す、といった場面で使われる。
持続的注意(どれだけ保つか)
必要な間、注意を保ち続ける働き。まれにしか起こらない変化を、長い時間見張り続ける場面で使われる。
分配的注意(いくつ扱うか)
複数の対象や作業に注意を振り分ける働き。歩きながら話す、運転しながら周囲を確認する、といった場面で使われる。

同じ人でも、3つの出来は一致するとは限りません。短い時間なら周囲を見渡せる人が、長時間続く単調な作業では見落としが増えることもあれば、その逆もあります。「注意力」を一つの数字で語れない理由は、ここにあります。

研究は、注意をどのように捉えているか

注意の研究は、働きを分けて捉える点では共通していますが、分け方は一つではありません。ここでは、公開されている3つの文献が述べている範囲を、PubMed の抄録と、公開されている論文本文で確認できる範囲で整理します。

文献取り上げていることこの記事との関係
Petersen と Posner(2012年)1990年に提案した枠組みを更新した総説。注意を警戒(アラート)、定位、実行制御の3つのネットワークで整理している3つに分ける発想の根拠。ただし分け方は本記事の3区分と同じではない
Sarter ほか(2001年)持続的注意を「まれに予測できない形で起こる信号を、長い時間にわたって検出する構えの強さ」と定義し、関わる脳の仕組みをまとめた総説持続的注意の定義の根拠
Pashler(1994年)単純な課題でも、二つを同時に行うと成績が落ちる現象(二重課題干渉)を扱った総説。行動の選択の段階に、同時に処理できない「ボトルネック」があると論じている分配的注意に限界があることの根拠

Petersen と Posner の総説は、警戒のネットワークについて、長く単調な課題で見張りを続ける持続的な警戒と関わることを述べています。これは、持続的注意を独立した働きとして扱う考え方と重なります。一方で、本記事の「選択的注意」と「分配的注意」は、この枠組みの定位や実行制御とそのまま対応するわけではありません。研究の用語と現場の言葉を一対一で置き換えないことが、読み違いを防ぎます。

Pashler の総説が示すのは、単純な二つの課題でも、同時に行うと干渉が起こりうることです。歩きながら考える課題を使う理由は、デュアルタスクの記事で整理しています。なお、これらの文献は総説であり、職場の安全や仕事の成果との関係を直接調べたものではありません。

3つの注意は、測り方も違う

どの注意を知りたいかによって、使う課題が変わります。次の表は、課題の考え方の例です。特定の検査や製品を示すものではなく、実際の課題は、刺激の数、提示の時間、課題の長さなどを細かく設計したうえで使われます。

知りたいこと課題の考え方の例結果の読み方で注意する点
選択的注意複数の刺激の中から、決められた標的にだけ反応する標的を探す速さと、誤って反応した回数を分けて見る
持続的注意長い時間、まれに出る信号にだけ反応する時間の経過とともに、見落としや反応の遅れが増えるかを見る
分配的注意二つの課題を同時に行い、単独のときと比べる単独のときからどれだけ成績が落ちるかを見る

反応の速さを測る課題でも、何を測っているかは型によって異なります。単純反応は合図に応えるだけの課題で、選択反応は合図に応じて動作を選ぶ判断の段階を含みます。型の違いは反応時間の型で整理しています。紙、タブレット、身体を使う測定のどれを選ぶかは、測定方法の種類と選び方が参考になります。

現場で注意機能を読むときの注意点

高年齢者の労働災害防止のための指針は、考慮すべき特性として、筋力、バランス能力、敏捷性、全身持久力、感覚機能、認知機能の低下等を挙げています。注意は、この認知機能の中で、作業の安全に近い働きです。ただし、指針が求めているのは特性への配慮であって、特定の測定を義務づけているわけではありません。測るかどうか、何を測るかは、事業場が作業の実態に合わせて決めます。

  • どの注意を知りたいのかを、先に決める。作業が「見張り」なら持続的注意、「複数の確認」なら分配的注意に近い
  • 1つの得点で「注意力が高い・低い」と言わない。選ぶ・保つ・分けるの結果を別々に見る
  • 同じ条件で複数回測り、通常のぶれを把握する。最初の数回は、練習効果で成績が動きうる
  • 結果を作業の安全に結びつけるときは、その作業に近い条件で確かめる。課題の成績が、実際の作業の見落としをそのまま予測するとは限らない

注意の低下が事故にどうつながりうるかは、注意機能の低下と事故の記事で、指針と研究から整理しています。測る前に、作業と環境を見直すことが先です。照明、表示、作業の手順を整えたうえで、それでも残る個人差や状態の変化を把握するために、測定を位置づけます。

  • ※ 本記事は2026年10月時点で公開されている資料にもとづいています。
  • ※ 引用した研究の内容は、PubMed の抄録と、公開されている論文本文で確認した範囲です。1990年の原典(Posner と Petersen)は抄録が公開されていないため、2012年の更新版の記述を通して引用しています。
  • ※ 選択的注意・持続的注意・分配的注意の3区分は、本記事の整理のための分け方であり、研究上の標準的な分類ではありません。「認知機能」「注意機能」は、本記事での使い方を定義したものです。
  • ※ 測定は状態を数値として把握するためのものであり、疾病の診断や予防、能力の向上を保証するものではありません。結果は健康情報に当たる場合があり、取扱いには本人の同意と事業場内の手続が必要です。

よくある質問

注意機能と集中力は同じですか。
この記事では、集中力を注意機能の一部を指す日常の言葉として扱います。たとえば、長く課題に向かい続ける力は持続的注意、まわりの音に惑わされない力は選択的注意に近い働きです。日常の言葉は幅が広いため、測定や評価ではどの働きを指すのかを決めてから使います。
注意機能は、3つに分けるのが定説ですか。
いいえ。3つは、現場で整理しやすい分け方の一つです。研究の枠組みには別の分け方もあり、たとえば Petersen と Posner は、警戒、定位、実行制御という3つのネットワークで注意を整理しています。分け方が違えば、同じ現象に別の名前がつくことがあります。
注意力が高い人は、反応も速いのですか。
一概には言えません。反応時間は、注意だけでなく、見る、判断する、動かすといった複数の段階で決まります。注意の働きと反応の速さは関係しますが、同じものではありません。反応の型の違いは、反応時間の記事で整理しています。
1回の測定で、注意機能が高いか低いかを判断できますか。
できません。1回の結果は、その日の体調、時間帯、課題への慣れの影響を受けます。同じ条件で繰り返し測り、その人の通常のぶれを把握したうえで、変化を読む必要があります。
注意機能の測定結果は、仕事の適性の判断に使えますか。
この記事の範囲では、使えるとは言えません。ある課題の成績が、実際の作業の安全や成果とどの程度結びつくかは、課題と作業ごとに確かめる必要があります。測定は状態を数値で把握するためのもので、人を選別する根拠として単独で使うものではありません。

出典

この記事を参照している記事

関連するサービス

Related

Contact

導入について、まずはご相談ください。

対象人数や実施時期が決まっていない段階でも構いません。現場の状況をお聞かせいただければ、適した進め方をご提案します。