反応時間とは、刺激が出てから反応が始まるまでの時間のことです。定義そのものは単純ですが、実際の数値を比べるときには注意が要ります。課題の作り方によって、同じ人でも値が2倍近く変わるからです。
この記事では、反応時間の課題がどう分類されてきたかを確認し、単純反応・選択反応・Go/No-Go の3つの型の違いを整理します。そのうえで、選択肢の数が時間に与える影響、「全身反応時間」のように測定値に筋肉の収縮時間が混ざる場合があること、そして測るときに固定しておくべき条件を見ていきます。
反応時間とは何を測っているのか
人は刺激を受けると、それを情報として知覚し、脳内で処理し、その結果として運動の指令を出します。反応時間はこの一連の過程にかかる時間を、外から観察できる形にしたものです。国内の研究では「刺激の呈示から反応が開始されるまでの潜時」と定義されています。
ここで重要なのは、反応時間が単一の能力を表す数値ではないという点です。知覚・判断・運動指令という複数の段階が含まれており、課題の設計によって、どの段階に負荷をかけるかを変えられます。この性質を利用したのが、次に見る分類です。
3つの型——ドンデルスのa・b・c
反応時間の課題を体系的に分けたのは、オランダの生理学者フランシスクス・ドンデルスです。1868年の報告(英訳は1969年に学術誌に掲載)で、音節を聞いて復唱する課題を使い、3つの形を区別しました。現在の呼び方と合わせると次のようになります。
| ドンデルスの呼び方 | 現在の呼び方 | 課題の内容 | 必要になる働き |
|---|---|---|---|
| a反応 | 単純反応 | 刺激は1種類だけ。出たらあらかじめ決めた反応をする | 刺激の検出と運動の実行 |
| b反応 | 選択反応 | 複数の刺激があり、どれが出たかによって反応を変える | 刺激の弁別と、反応の選択 |
| c反応 | Go/No-Go | 複数の刺激があるが、特定の刺激のときだけ反応し、他では反応しない | 刺激の弁別。ただし反応の選択はない |
ドンデルスが報告した時間の順序は、a反応がもっとも短く、次にc反応、もっとも長いのがb反応でした。c反応がa反応より長いのは弁別の分、b反応がc反応より長いのは反応を選ぶ分、という読み方になります。課題の差を引き算することで、間に挟まった処理にかかる時間を取り出そうとしたわけです。この考え方は後に批判も受けましたが、課題を3つに分ける整理自体は今も使われています。
Go/No-Go課題は現在、反応を抑えるはたらきを見る課題として使われています。反応すべきでない刺激に反応してしまう誤りと、反応すべき刺激に反応しそこなう誤りは別の意味を持ち、前者は抑制の指標、後者は注意の指標として読まれることが一般的です。このため、Go/No-Go課題では反応時間だけでなく、2種類の誤りの数も合わせて見ます。
選択肢が増えると、どれだけ延びるか
選択肢の数と反応時間の関係については、選択肢数をnとしたとき反応時間が log(n+1) に比例するという関係が知られています。実際にステップ動作で測った国内の研究があります。健常な若年成人16人(平均22.9歳)を対象に、光の刺激に対してできるだけ速く足を踏み出す課題を行い、3つの条件で比較したものです。
| 条件 | 課題の内容 | 前方ステップの反応時間(ミリ秒) |
|---|---|---|
| 単純反応 | 1色の刺激に対し、決められた脚で決められた方向へ | 327.4 ± 80.3 |
| 選択反応(2択) | 2色の刺激に対し、踏み出す脚の左右を選ぶ | 454.8 ± 116.4 |
| 選択反応(6択) | 6色の刺激に対し、脚の左右と方向を選ぶ | 627.3 ± 134.9 |
単純反応と6択の選択反応では、平均で300ミリ秒近い差がついています。同じ「光ったら足を出す」という課題でも、選ぶ要素が増えるだけで倍近くかかるということです。さらにこの研究では、各条件に計算課題(提示された数字から7ずつ引く)を加えた条件も測っており、前方ステップの単純反応は327.4ミリ秒から515.2ミリ秒へ延びています。2つの課題を同時に行う枠組みはデュアルタスクと呼ばれます。
この研究の対象は若年成人16人で、著者自身も、高齢になるほど反応時間は延びるとされているため、より幅広い年代での検証が必要だと述べています。数値そのものを基準値として使うことはできません。読み取るべきは、課題の作り方で値が大きく変わるという関係のほうです。
同じ「反応時間」でも、中身が違うことがある
体力測定の場面でよく使われる「全身反応時間」は、ランプが光ったら低く跳ぶという課題で測ります。公益財団法人長寿科学振興財団の解説によれば、この測定値は2つの要素に分かれます。刺激からジャンプ動作の開始までが反応開始時間で、神経機能を反映するとされ、動作開始から足がマットを離れるまでが筋収縮時間で、筋の収縮能力を示すとされます。全身反応時間はこの2つの合計です。
つまり全身反応時間には、判断の速さだけでなく、脚の筋肉が収縮する速さも含まれています。同じ値でも、神経側が遅いのか筋肉側が遅いのかは、合計値だけでは区別できません。資料を読むときは、どこからどこまでを測った値なのかを確認する必要があります。
もうひとつ押さえておきたいのは、反応時間が筋力やバランス能力とは別の側面を見ている可能性が指摘されていることです。先ほどのステップ動作の研究は、反応時間と筋力・バランス能力との関連性は認められていないとする先行研究を引いたうえで、反応時間はそれらとは異なる機能的側面を測定している可能性があると述べています。筋力を測っても反応の速さは分からず、その逆も同じだということになります。
加齢との関係については、国内で単純反応と弁別反応の両方を測った研究があります。若年・中年・高年の男女48人を比べたもので、どちらの課題でも平均反応時間は加齢とともに遅くなり、反応時間のばらつきも加齢とともに大きくなる傾向が報告されています。平均値だけでなく、ばらつきも見る必要があるということです。
測るときに決めておくこと
反応時間を現場で使うなら、前回と比較できる形で測ることが前提になります。課題の作り方で値が変わる以上、条件を固定しないと、変化したのが人なのか条件なのかが分かりません。最低限、次の点は決めておく必要があります。
- 課題の型を決める。単純反応なのか、選択反応なら何択なのか、Go/No-Go なら反応しない刺激の割合はどれくらいか
- 刺激の種類(光・音など)と、反応の仕方(ボタン・ステップ・全身)を決める。全身で測る場合、筋収縮の時間が含まれることを踏まえておく
- 刺激が出るタイミングをランダムにする。予測できると、測っているのが反応ではなく予測になる
- 試行回数と、代表値の取り方(平均か最速値か)を決める。ばらつき自体を見るなら、全試行を残す
- 正答・誤答の扱いを決める。特に Go/No-Go では、反応時間と誤りの回数を合わせて見る
そして、測った結果を何に使うかを先に決めておくことです。反応時間は認知機能のうち注意や判断に関わる側面を外から捉える手がかりになりますが、それ自体が診断になるわけではありません。どの値が出たら作業内容を見直すのか、誰と共有するのかを決めずに測ると、数値だけが残ります。
- ※ 本記事は2026年10月時点で公開されている資料にもとづいています。
- ※ 紹介した国内研究の数値は、健常な若年成人16人(平均22.9歳)を対象とした条件下のもので、基準値として使えるものではありません。年代や測定機器が異なれば値も変わります。
- ※ 「全身反応時間」の測定方法の説明は、公益財団法人長寿科学振興財団が運営する健康長寿ネットの記載によります。
- ※ 反応時間の測定は状態を数値として把握するためのものであり、疾病の診断や、事故の予防を保証するものではありません。医学的な判断は医師が行います。
よくある質問
- 単純反応時間と選択反応時間は、どれくらい違うのですか。
- 課題によりますが、差は小さくありません。ステップ動作で測った国内の研究では、前方へのステップで、単純反応が平均327.4ミリ秒、踏み出す脚の左右を選ぶ2択で454.8ミリ秒、脚と方向を選ぶ6択で627.3ミリ秒でした。選択肢が増えるほど時間が延びるという関係があり、選択肢数をnとしたとき log(n+1) に比例するという関係が知られています。ただしこの数値は健常な若年成人16人を対象としたもので、基準値ではありません。
- Go/No-Go課題では何を見るのですか。
- 反応を抑えるはたらきを見ます。頻繁に出る刺激には反応し、まれに出る刺激には反応しないという課題で、反応してはいけない刺激に反応してしまった回数が抑制の指標として読まれます。一方、反応すべき刺激に反応しそこなった回数は注意の指標として扱われることが一般的です。このため、反応時間だけでなく2種類の誤りの数を合わせて見る必要があります。
- 体力測定の「全身反応時間」も反応時間ですか。
- 含まれますが、中身は同じではありません。健康長寿ネットの解説によれば、全身反応時間は、刺激からジャンプ動作の開始までの反応開始時間(神経機能を反映)と、動作開始から足がマットを離れるまでの筋収縮時間(筋の収縮能力)の合計です。合計値だけを見ると、神経側が遅いのか筋肉側が遅いのかを区別できません。
- 反応時間を測れば、筋力やバランスの状態も分かりますか。
- 分かりません。ステップ動作を測った国内の研究は、反応時間と筋力・バランス能力との関連性は認められていないとする先行研究を引いたうえで、反応時間はそれらとは異なる機能的側面を測定している可能性があると述べています。筋力やバランスの測定と、反応時間の測定は、互いの代わりにはならないという前提で組み合わせることになります。
- 反応時間は年齢とともに遅くなりますか。
- そうした報告があります。若年・中年・高年の男女48人を対象に単純な課題と弁別を伴う課題を測った国内の研究では、どちらの課題でも平均反応時間が加齢とともに遅くなり、反応時間のばらつきも加齢とともに大きくなる傾向が報告されています。平均値だけでなく、試行ごとのばらつきも見ることが勧められます。ただし集団の傾向であり、個人の状態を年齢から判断できるものではありません。
出典
- On the speed of mental processes(Donders、1868年の報告の英訳、Acta Psychologica 30巻、1969年)(外部サイトが新しいタブで開きます)
- ステップ動作における単純反応時間と選択反応時間の分析(秋山ほか、理学療法科学 32巻6号、2017年)[PDF](外部サイトが新しいタブで開きます)
- 地域在住高齢者の座位における下肢反応時間と運動機能との関連(理学療法科学 32巻6号、2017年)[PDF](外部サイトが新しいタブで開きます)
- 随伴陰性変動と反応時間の加齢影響(有藤・高橋、産業医学 33巻3号、1991年)(外部サイトが新しいタブで開きます)
- 全身反応測定の測定方法|健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)(外部サイトが新しいタブで開きます)
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