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Measurement

「認知機能を測りたい」と考えたとき、最初に決めるのは手段ではなく目的です。目的が違えば、項目も基準も、結果の使い道も変わります。

測定とデータ

認知機能を測る方法には、紙に記入するもの、タブレットで行うもの、身体を動かして測るものがあります。ただし、これらは同じものを別の道具で測っているわけではありません。それぞれ別の目的のために作られており、測っている内容も、結果の使い道も違います。

この記事では、目的の異なる3つの測定を一次資料から並べ、それぞれが何のために作られたものかを確認します。そのうえで、現場で方法を選ぶときにどの順序で考えればよいかを整理します。なお認知機能という語が指す範囲そのものについては、別の記事で扱っています。

方法ではなく、目的から決まる

測定方法を比べる前に、目的を3つに分けておきます。この区別を飛ばして道具だけを比べると、合わない方法を選ぶことになります。

目的何を判断したいか代表的な方法
診療の補助認知症やその前段階の可能性があるか。医師の診断の材料にするMMSE、HDS-R、MoCA-J などの神経心理検査
制度上の判定制度が定めた区分のどちらに当たるか運転免許の認知機能検査(手がかり再生、時間の見当識)
就業や作業の設計この作業を安全に行える状態か。配置や作業内容の見直しにつなげる体力チェック、反応や注意の測定

注意したいのは、上の行の方法を下の目的に流用できないことです。診療の補助のために作られた検査は、認知症を疑う必要があるかどうかを判断するための物差しであり、健康な人のあいだの差を細かく見分けるようにはできていません。職場で従業員に受けさせても、ほとんどの人が満点に近い値になり、作業の設計には使えません。

紙で行う測定——診療で使われる検査

日本神経学会の認知症疾患診療ガイドラインは、認知機能の評価に使われる検査を挙げています。代表的なものがMMSE、HDS-R、MoCA-Jです。いずれも短時間で実施でき、質問と簡単な課題に答える形式です。

MMSE
見当識や記憶、計算、言語、図形の模写などを含む。ガイドラインは、軽症例、病前の能力が高い場合、視空間認知の障害が主症状となる場合には感度が低いと述べている
HDS-R
すべて言語を用いる検査である点が特徴として挙げられている
MoCA-J
軽度認知障害(MCI)の検出に用いられる

これらの検査は、認知症の診療という文脈で、医師が診断を組み立てるための材料として位置づけられています。点数そのものが診断ではありません。ガイドラインが感度の限界に触れているのも、検査結果だけで判断しないという前提があるためです。

職場や施設でこうした検査を独自に実施することには、慎重になる必要があります。検査の結果は健康情報に当たり、取扱いには本人の同意や事業場内の手続が必要です。また、認知症を疑わせる結果が出たときに誰がどう対応するのかを決めずに実施すると、受けた本人にも実施した側にも対応のしようがない情報だけが残ります。

紙とタブレットが併用されている例——運転免許の認知機能検査

制度上の判定として行われる測定の例が、運転免許の認知機能検査です。警察庁によれば、運転免許証の更新期間が満了する日の年齢が75歳以上のドライバーは、認知機能検査等を受けなければならないこととされています。検査項目は手がかり再生と時間の見当識の2つです。

手がかり再生
記憶力を検査するもの。一定のイラストを記憶し、採点には関係しない課題を行った後、記憶しているイラストをヒントなしに回答し、さらにヒントを基に回答する
時間の見当識
時間の感覚を検査するもの。検査時における年月日、曜日及び時間を回答する

回答の方式は1つではありません。警察庁は「検査用紙に受検者が記入し、又は検査に必要なソフトウェアが搭載されたタブレットに受検者がタッチペンで入力して行います」と説明しています。紙とタブレットのどちらでも同じ検査が成り立つということです。デジタルかどうかは、測定内容とは別の問題だと分かります。

結果は、認知症のおそれがある方、またはおそれがない方のいずれかに判定されます。判定の区分が2つしかないのは、この検査が制度上の手続を分岐させるために作られているからです。そして警察庁は、この検査の位置づけをはっきり書いています。

認知機能検査は、受検者の記憶力や判断力の状況を確認するための簡易な手法であり、医師の行う認知症の診断や医療検査に代わるものではありません。
— 警察庁「認知機能検査について」

測定を扱う側が持っておきたい姿勢が、この一文に表れています。何を測る手法で、何の代わりにはならないのかを、提供する側が明示することです。

身体を使う測定——動きの中で捉える

3つ目が、身体を動かして測る方法です。職場の文脈では、これが制度上も位置づけられています。2026年4月に適用された高年齢者の労働災害防止のための指針は、事業者が考慮すべき特性として筋力、バランス能力、敏捷性、全身持久力、感覚機能及び認知機能の低下等を挙げており、指針の解釈を示した通達は、体力チェックの範囲について、事業場の実情に応じて全身持久力、感覚機能や認知機能等を含めて差し支えないとしています。

通達が例示する方法のひとつである転倒等リスク評価セルフチェック票には、座位ステッピングテストが含まれます。20秒間に足を何回踏み替えられるかを数えるもので、括弧書きでは敏捷性と説明されています。合図に応じて素早く足を動かすという点で、身体の測定でありながら、反応や注意の要素が入ります。

身体を使う測定の利点は、現場の動作に近い形で測れることです。机に向かって答える形式では、立って歩いて物を運ぶ作業との距離があります。一方で注意すべき点もあります。たとえば全身反応時間は、刺激から動作開始までの反応開始時間と、動作開始から足が離れるまでの筋収縮時間の合計であり、合計値だけでは神経側と筋肉側を区別できません。何を測った値なのかは、方法ごとに確認が要ります。反応時間の測り方については別の記事で詳しく扱っています。

運動と認知課題を同時に行う形式もあります。国立長寿医療研究センターのコグニサイズのように、運動しながら計算やしりとりを行う設計です。ただしこれは予防の取り組みとして設計されたもので、そのまま測定に使う場合は、前回と比較できるよう条件を固定する必要があります。

選ぶときの4つの問い

方法を選ぶときは、道具を比べる前に次の順で決めていくと、目的から外れた選択を避けられます。

  1. 何を判断したいのか。診療の補助か、制度上の判定か、作業や配置の設計か。この答えによって、使える方法の範囲が決まる
  2. その判断に必要な側面はどれか。記憶なのか、注意や反応なのか、両方か。測る側面が決まらないと項目を選べない
  3. 結果が出たあと、誰が何をするのか。基準に満たない人がいたときの手順(作業の見直し、産業医への相談など)を先に決めておく
  4. 繰り返し測れるか。条件を固定でき、同じ手順で再測定できるか。1回きりの値は変化を示さない

当社が主題にしているのは3つ目の目的、つまり作業や配置の設計に使うための測定です。認知症のスクリーニングとは目的が異なり、互いの代わりにはなりません。どちらが優れているという話ではなく、何を判断したいのかによって必要な方法が変わる、ということです。

  • ※ 本記事は2026年10月時点で公開されている資料にもとづいています。
  • ※ MMSE、HDS-R、MoCA-J に関する記述は、日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」第2章の記載によります。同ガイドラインには2026年5月発行の改訂版があり、学会のウェブサイトでは2017年版が無料公開されています。本記事は無料公開されている2017年版に拠っており、改訂版で記述が変わっている可能性があります。
  • ※ 運転免許の認知機能検査の記述は警察庁のウェブサイトによります。採点方法の詳細は同庁の別ページに掲載されています。
  • ※ 測定は状態を数値として把握するためのものであり、疾病の診断や予防を保証するものではありません。医学的な判断は医師が行います。検査結果や測定結果は健康情報に当たる場合があり、取扱いには本人の同意と事業場内の手続が必要です。

よくある質問

認知機能の測定方法には、どのような種類がありますか。
目的で分けると3つに整理できます。診療の補助として医師が診断の材料に使う神経心理検査(MMSE、HDS-R、MoCA-Jなど)、制度上の判定として行われる検査(運転免許の認知機能検査)、そして就業や作業の設計のために行う測定(体力チェックや反応・注意の測定)です。形式としては紙、タブレット、身体を動かすものがありますが、形式よりも何のために作られた方法かのほうが重要です。
従業員の認知機能を測りたい場合、MMSEなどを使えばよいですか。
目的が異なるため、おすすめできません。MMSEなどは認知症の診療という文脈で使われる検査で、日本神経学会のガイドラインも、軽症例や病前の能力が高い場合には感度が低いと述べています。健康な従業員に実施してもほとんどが満点に近い値になり、作業の設計には使えません。加えて、認知症を疑わせる結果が出たときの対応手順と、健康情報としての取扱いを決めておく必要があります。
紙とタブレットでは、測定の精度が違いますか。
形式の違いと測定内容の違いは別の問題です。運転免許の認知機能検査は、警察庁の説明によれば、検査用紙に記入する方法と、ソフトウェアを搭載したタブレットにタッチペンで入力する方法のどちらでも実施されています。同じ検査が両方の形式で成り立っているということです。選ぶときは、形式ではなく、何を測る方法なのかを先に確認してください。
身体を使う測定で、認知機能も分かるのですか。
測り方によって、反応や注意に関わる側面を捉えることはできます。高年齢者の労働災害防止のための指針は考慮すべき特性に感覚機能と認知機能を挙げ、通達は体力チェックの範囲に事業場の実情に応じてこれらを含めて差し支えないとしています。ただし測定値の中身は確認が必要です。たとえば全身反応時間は反応開始時間と筋収縮時間の合計で、合計値だけでは神経側と筋肉側を区別できません。
測定方法を選ぶとき、最初に決めることは何ですか。
何を判断したいのかです。診療の補助なのか、制度上の判定なのか、作業や配置の設計なのかによって、使える方法の範囲が決まります。次に、その判断に必要な側面(記憶か、注意や反応か)を決め、結果が出たあと誰が何をするのかを先に決めます。最後に、同じ条件で繰り返し測れるかを確認します。1回だけの値は変化を示さないためです。

出典

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