走行距離や筋力、睡眠、血液、そして反応の速さまで、競技の現場で扱えるデータは増え続けています。ただ、項目が増えるほど「誰が測り、誰が読み、誰が決めるのか」があいまいになりがちです。担当者の手元に数字がたまるだけで、練習や起用の判断に届かないこともあります。
この記事では、プロスポーツチームの測定をフィジカル、メディカル、認知の三つの役割に分けて整理します。特定のチームの体制を紹介するものではなく、研究で報告されていることと、当社が考え方として整理したことは分けて書きます。
パフォーマンス測定の三つの役割
この記事では「パフォーマンス測定」を、競技力や選手の状態に関わる情報を、決めた方法で繰り返し取り、判断の材料にすることとして使います。また「認知」は、状況に気づき、意味をとらえ、次の動きを決める過程を指します。詳しくは認知機能とは何かで説明しています。次の表は、当社が整理のために分けたものです。
| 領域 | 主な問い | 測るものの例 | 主に関わる人の例 | 結果の使い道 |
|---|---|---|---|---|
| フィジカル | 動ける身体か。どれくらいの負荷がかかっているか | 筋力、スプリント、跳躍、持久力、練習や試合での移動距離 | フィジカルコーチ、トレーナー、データ担当 | 練習の負荷調整、強化の優先順位づけ |
| メディカル | 健康に問題はないか。復帰してよいか | 診察、検査、けがや体調の記録、復帰時の機能評価 | チームドクター、理学療法士、トレーナー | 診療、出場可否の助言、復帰の計画 |
| 認知 | 見て、判断して、動けているか | 反応時間、選択反応の速さと正確さ、競技の場面を使った判断の課題 | コーチ、データ担当、心理の専門家 | 判断の課題づけ、推移の確認、指導の材料 |
三つは独立したものではありません。疲労が判断に関わることもあれば、けがからの復帰で動きと判断の両方を確かめたいこともあります。負荷や体調の管理についてはコンディショニングとは、機器で取れるデータの範囲についてはウェアラブルとセンサーで何が測れるかでも整理しています。
分担より大切な、連携と判断の責任
部門を分けると、それぞれの専門性は高まりますが、情報が部門の中で止まりやすくなります。Dijkstra ら(2014年)は、エリート選手への医科学支援について、専門家が並ぶだけの体制では統合と効果的な情報伝達が欠けやすいと指摘しました。そして、英国陸上競技連盟のロンドン五輪・パラリンピックに向けた経験をもとに、医療チームとコーチングチームが共通の目標で協働し、パフォーマンスディレクターに責任を負う統合型のモデルを提案しています。
この提案は一つの競技団体の経験にもとづくもので、チームスポーツのプロクラブにそのまま当てはまるとは限りません。それでも、体制を考えるうえで参考になる点があります。
- 情報を束ねる担当を決める。選手や監督が、各部門の助言を自分たちだけで整理しなくてもよいようにします。
- 誰が何を決めるかを先に定める。論文は、脳しんとう後の復帰のように選手本人が明確に判断できない場面で、医療者ではない指導者が医療上の判断を下したり覆したりすることは認められないとしています。
- 会議の場を決めておく。測定の結果を、次の練習や起用の話し合いに載せる時点をあらかじめ決めます。
選手の主観も、測定の一部として扱えます。Saw ら(2016年)は56本の研究を系統的に検討し、主観と客観の指標は多くの場合に相関せず、気分や感じているストレスといった主観の指標は、訓練の負荷の変化を客観の指標より高い感度と一貫性で反映したと報告しました。高価な機器の数値だけを見るのではなく、選手自身の報告も並べて読むことに根拠があります。
認知の測定で研究が示していること、まだ言えないこと
フィジカルやメディカルに比べて、認知は測定の方法も使い方も確立の途上にあります。主な研究を見ておきます。
| 論文 | 対象と方法 | 報告された結果 | 読むときの注意 |
|---|---|---|---|
| Kalén ら(2021年)統合分析 | 競技者を対象にした142研究、8,860人 | 競技レベルの高い選手ほど成績がよい(効果量 0.59)。判断の課題(0.77)は基礎的な機能(0.39)や高次の機能(0.44)より差が大きい | 前向きの研究は11本のみ。将来の成績を予測できるかは根拠が不十分 |
| Scharfen と Memmert(2019年)統合分析 | 19研究。熟達者や一流選手と、それ以外を比較 | 認知機能で優位。効果は小〜中程度(r = 0.22) | 認知の領域や年齢による差は有意ではなかった。「熟達者」の定義で結果が変わる |
| Vestberg ら(2012年)サッカー選手 | スウェーデンの選手57人。うち男子25人を2シーズン後の得点・アシストと照合 | 上位リーグの選手は下位より実行機能の検査成績がよく、後の得点・アシストとも相関(r = 0.54) | 人数が少なく、一つの国と競技の結果。男子のみの追跡 |
| Harris ら(2018年)市販の認知トレーニング機器の系統的レビュー | 43研究。競技の課題への波及を直接調べたのは1本 | 競技の課題への波及を支持する根拠は限られている | 研究が少ないことも理由で、効果がないと示されたわけではない |
まとめると、「上手な選手は認知の検査でも成績がよい傾向がある」ことは、かなり安定して報告されています。ただし、これは主に比較の研究で、検査の結果が競技力を生んでいるのか、競技経験が検査の成績に表れているのかは区別できません。
Kalén らは、実行機能のような一般的な認知機能の検査を、選手の発掘や選抜に使うべきだという主張を支持する根拠は見つからなかったと述べています。一方で Scharfen と Memmert は、スカウティングや育成の追加の道具として取り入れることに利点がありうるとしています。研究者の間でも見方に幅があるので、認知の数値だけで選手を評価することは避けるのが妥当です。トレーニングの研究の読み方は認知トレーニングが目指すものでも扱っています。
認知の測定をチームに加えるときの進め方
以下は、研究の現状を踏まえて当社が整理した進め方です。
- 問いを先に決める。「ポジションごとの判断の傾向を知りたい」「復帰の過程で確かめたい」など、結果を何に使うかを決めてから項目を選びます。
- 競技に近い課題と一般的な課題を分けて考える。統合分析では、競技に即した刺激の課題で差が大きいと報告されています。一般的な課題は条件をそろえやすい反面、競技の判断そのものを測っているとは限りません。
- 条件をそろえて繰り返す。時間帯、疲労、機器、説明の仕方をそろえ、1回の値で判断しません。練習効果と測定の信頼性と妥当性も確かめておきます。
- 速さと正確さを一緒に見る。反応の速さだけを追うと、誤りの増加を見落とします。反応速度と動体視力の違いのように、似た言葉の区別も共有しておきます。
- 他の情報と並べて読む。負荷、体調、本人の感覚、試合の映像と並べて、次に何を変えるかまで話し合います。
けがからの復帰の場面では、医療側の判断を前提に、認知の課題を補助的な情報として使います。詳しくは競技復帰の判断に使われる評価で整理しました。
当社の REAXION Pro は、視覚刺激に対する反応、判断の正確性、動作までの流れを分けて測定し、そのままトレーニングへつなげるシステムです。ポジション別の傾向の整理や、シーズンを通した推移の記録に対応します。医療機器ではなく、診断や出場可否の判断を行うものでもありません。
データの扱いで先に決めておくこと
測定の仕組みを作る前に、データの扱いも決めておきます。個人情報保護法のガイドライン(通則編)では、病歴や、医師等による健康診断その他の検査の結果などが要配慮個人情報に当たるとされています。Dijkstra らの論文でも、組織の文化や契約で医療上の守秘を考慮すべきことが挙げられています。
| 決めておくこと | 確認の例 |
|---|---|
| 目的 | 何のために測り、何には使わないのか。契約や査定に使うかどうかも明確にする |
| 閲覧の範囲 | 診療に関わる情報と、練習に使う情報を分け、部門ごとに見られる範囲を定める |
| 本人への説明 | 結果の返し方、同意の取り方、在籍後のデータの扱いを説明する |
| 未成年の選手 | 下部組織などでは、保護者への説明と同意も含めて手順を定める |
具体的な取扱いは、医療情報に当たるかどうかなどで変わるため、チームの法務担当や専門家に確認してください。選手が結果を不利に使われると感じると、率直な報告が得られにくくなり、主観の情報の価値も下がってしまいます。
- ※ この記事は、競技現場での測定に関する一般的な情報を整理したものです。特定の測定や機器によって競技力が高まること、けがを避けられることを保証するものではありません。
- ※ けがや体調に関する判断は、医師などの医療専門職に相談してください。
よくある質問
- 認知の測定で選手の将来を予測できますか。
- 現時点では言えません。競技者を対象にした統合分析では、前向きの研究が142研究中11本と少なく、将来の競技成績を予測できるかは根拠が不十分とされています。サッカー選手で得点やアシストとの相関を報告した研究もありますが、人数は限られています。
- 一般的な認知機能の検査と、競技に近い課題はどちらがよいですか。
- 目的によります。統合分析では、競技に即した刺激の課題で選手間の差が大きいと報告されています。一方、一般的な課題は条件をそろえやすい面があります。何を確かめたいのかを決めてから選び、結果は他の情報と並べて読みます。
- 測定の数値は、どの部門が管理すべきですか。
- 決まった形はありません。統合型のモデルでは、情報を束ねて共通の目標に向けて連携することが重視されています。診療に関わる情報は医療側が管理し、練習に使う情報と閲覧の範囲を分けるなど、あらかじめルールを決めておくのが現実的です。
- 市販の認知トレーニング機器を使えば、判断は速くなりますか。
- 断定はできません。市販の認知トレーニング機器の系統的レビューでは、競技の課題への波及を支持する根拠は限られていました。ただし、競技の場面で調べた実験が少ないことも理由で、効果がないと示されたわけでもありません。
出典
- Kalén A, et al. The role of domain-specific and domain-general cognitive functions and skills in sports performance: A meta-analysis. Psychol Bull. 2021;147(12):1290-1308|ガリシア州保健サービス 研究ポータル(書誌情報)(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Scharfen HE, Memmert D. Measurement of cognitive functions in experts and elite athletes: A meta-analytic review. Appl Cogn Psychol. 2019;33(5):843-860|ケルン体育大学 研究ポータル(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Vestberg T, et al. Executive functions predict the success of top-soccer players. PLoS One. 2012;7(4):e34731|PLOS(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Harris DJ, et al. A Systematic Review of Commercial Cognitive Training Devices: Implications for Use in Sport. Front Psychol. 2018;9:709|Frontiers(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Dijkstra HP, et al. Managing the health of the elite athlete: a new integrated performance health management and coaching model. Br J Sports Med. 2014;48(7):523-531|PMC(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Saw AE, et al. Monitoring the athlete training response: subjective self-reported measures trump commonly used objective measures: a systematic review. Br J Sports Med. 2016;50(5):281-291|PMC(外部サイトが新しいタブで開きます)
- 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)|個人情報保護委員会(外部サイトが新しいタブで開きます)
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