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SportsTech

選手の動きを測るセンサーも、デジタルチケットも、大会のエントリーシステムも「スポーツテック」です。範囲の広いこの言葉を、4つの領域とデータの流れで整理します。

スポーツテック・システム開発

選手の動きをセンサーで記録する、試合の映像を自動で分析する、スマートフォンでチケットを買って会場で表示する、マラソン大会の記録がゴール直後に届く。どれも「スポーツテック」と呼ばれる技術の使い方です。

言葉としてはよく聞くようになりましたが、指している範囲は人によって違います。アスリートの競技力に関わる技術の話なのか、ファンの観戦体験の話なのか、大会や団体の運営の話なのかで、関わる人も、求められる仕組みもまったく異なります。

この記事では、スポーツ団体や大会主催者、スポーツに関わるシステムを検討している企業の担当者に向けて、スポーツテックを4つの領域に分けて全体像を示し、国の政策の動きと、導入・開発の際に確かめておきたいことを整理します。

スポーツテックとは——この記事での定義

スポーツテックには、法律や公的な文書で決まった定義はありません。この記事では「スポーツをする・みる・ささえる場面で、センサー・映像・アプリ・データ処理などのデジタル技術を使う製品・サービス」の総称として使います。

「する」「みる」「ささえる」は、スポーツ庁が政策の資料で使っている区分です。スポーツ庁の「スポーツ×テクノロジー活用推進事業」の資料では、スポーツの場におけるDX化・テクノロジーの活用は、この3つの場面でコロナ禍を機に急速に進みつつあると説明されています。

する
競技者や運動する人の側。トレーニング、試合、測定など、体を動かす人に関わる場面です。
みる
観客やファンの側。会場での観戦、配信や中継による観戦などに関わる場面です。
ささえる
スポーツ団体、大会主催者、指導者など、スポーツを成り立たせる側。運営、事務、記録の管理などに関わる場面です。

この記事では、「する」をさらに「計測」と「分析」に分けて、計測・分析・観戦・運営の4つの領域として扱います。データを取ることと、そのデータを判断に使うことは、必要な技術も担当する人も違うためです。

4つの領域の全体像

4つの領域を、主な利用者と技術の例とともに一覧にすると次のようになります。技術の例は、スポーツ庁の委託調査の報告書(令和7年3月)が挙げているDX施策の類型も参考にしています。

領域場面主な利用者技術の例得られるもの
計測する選手、指導者、大会主催者タイム計測機器、ウェアラブル端末、AIカメラ、バイタル情報の記録、反応・判断の測定記録、身体や動きのデータ
分析する指導者、分析担当、選手パフォーマンス管理分析システム、映像分析、スタッツの自動分析練習や戦術の判断材料
観戦みる観客、ファンデジタルチケット、モバイルオーダー、VR・AR、配信、SNS観戦体験の価値、ファンとの接点
運営ささえるスポーツ団体、大会主催者、事務局大会運営システム、大会エントリーシステム、会員情報の基盤、デジタル審判、データ管理・分析基盤運営の効率化、ガバナンスの強化、記録の管理

表では領域を分けていますが、実際には一つのデータが複数の領域にまたがって使われます。たとえば大会で計測したタイムは、選手にとっては自分の記録であり(計測)、指導者にとっては練習を見直す材料であり(分析)、観客にとっては速報として楽しむ情報であり(観戦)、主催者にとっては公式記録として管理する対象です(運営)。スポーツテックを考えるときは、技術ごとではなく、データの流れとして全体を見ると整理しやすくなります。

計測と分析——「する」側のテクノロジー

計測は、スポーツテックの出発点です。何を測るかによって、大きく三つに分けられます。

  • 競技の記録。タイム、距離、得点など、競技の結果そのものです。代表的な計測の方式には、人の手による計時、光電管、選手が身につけるICチップを読み取る方式などがあり、競技や大会の規模によって使い分けられています。
  • 身体と動き。心拍などのバイタル情報、走行距離や速度、体の動きなどです。ウェアラブル端末やカメラを使って、練習や試合の最中に記録する方法が広がっています。
  • 反応と判断。刺激を見てから動き出すまでの時間や、状況を見て正しい選択ができたかといった、認知の働きに関わる指標です。

三つ目の反応と判断は、身体の指標に比べて、まだ測定の方法が統一されていない領域です。一口に反応時間といっても、決まった刺激に決まった動きで応える単純な反応と、複数の刺激から正しいものを選んで応える選択反応とでは、測っているものが違います。違いは反応時間の種類で整理しています。また、反応の速さと、動いているものを見る力(動体視力)は別の能力であり、混同しないことが大切です(反応速度と動体視力の違い)。

分析は、計測したデータを練習や戦術の判断に使う段階です。スポーツ庁の委託調査の報告書は、DXのメリットの一つに、パフォーマンス管理分析システムやデジタルトレーニングの活用による選手の競技力向上を挙げています。ただし、分析の質は計測の質を超えられません。同じ選手を同じ条件で測ったときに同じような値が出るか(信頼性)、測りたい能力を測れているか(妥当性)が確かめられていないデータからは、確かな判断は引き出せません。考え方は測定の信頼性と妥当性で解説しています。

観戦と運営——「みる」「ささえる」側のテクノロジー

観戦の領域では、会場での体験と、会場の外での体験の両方にテクノロジーが使われています。スポーツ庁の委託調査の報告書は、デジタルチケットやモバイルオーダーなどによる直接観戦(会場)の価値向上と、VR・ARやSNSなどによる間接観戦の価値向上を、ファンの体験価値を高めるDXのメリットとして挙げています。チケットの購入データなどを分析して、マーケティングや広告に活かす取り組みも同じ報告書で紹介されています。

運営の領域は、目立ちにくいものの、スポーツ団体や大会主催者にとって負担の大きい部分です。会員の登録、大会のエントリー受付、当日の計測と記録の集計、結果の公開、問い合わせ対応など、多くの業務がこの領域に含まれます。同じ報告書は、VARなどのデジタル審判や大会運営システムの導入による大会運営の高度化を、DXのメリットの一つとしています。

運営のテクノロジーは、他の3つの領域を支える土台でもあります。エントリーの段階で参加者の情報が正しく登録されていなければ、計測した記録を正しい人に結びつけられず、速報も公式記録も出せません。会員や選手の情報を一元的に管理する基盤を整えることは、データを活かすための前提になります。

国の動きと、導入・開発で確かめること

国の政策では、スポーツテックはスポーツの成長産業化の手段として位置づけられています。第3期スポーツ基本計画(令和4年度〜令和8年度)は、スポーツ市場規模を2025年までに15兆円にする目標を掲げていました。令和7年に公表された中間評価では、令和3年の市場規模は10.0兆円で、遅くとも2030年までに15兆円の達成を目指すとされています。

スポーツ庁は「スポーツ×テクノロジー活用推進事業」で、する・みる・ささえるの場面でのテクノロジーの先進事例づくりを支援するとともに、投球データや試合・選手の映像といったスポーツデータの取り扱いについて、実態調査とルールの検討を進めてきました。中間評価でも、今後5年間に総合的かつ計画的に取り組む12施策の一つに「スポーツ界におけるDXの推進」が挙げられています。また、スポーツ団体の人材や資金の不足を踏まえ、デジタル技術の活用基盤の充実や、システム・アプリの横展開を進める方向も示されています。

スポーツ団体の側の取り組みも進んでいます。スポーツ庁の委託調査のアンケートでは、働き方改革・データ改革・事業改革に取り組んでいるスポーツ団体は全体の8割程度、ビジネスモデル改革に取り組んでいる団体も5割程度とされています。

こうした流れを踏まえ、スポーツテックを導入・開発するときに確かめておきたいことを挙げます。

  1. どの領域の課題か。計測・分析・観戦・運営のどこに課題があり、誰の負担を減らしたいのか、誰の体験を良くしたいのかを先に決める。
  2. 何を測るか。記録・身体・反応のうち、何を、どの方法と条件で測るのか。測定の信頼性と妥当性は確かめられているか。
  3. データはどこへ流れるか。計測したデータを、分析・観戦・運営のどこで使うのか。エントリーや会員の情報と正しく結びつくか。
  4. データの権利と取り扱いは決まっているか。選手や参加者のデータを、誰が、何の目的で、どこまで使えるのかを、関係者と合意しておく。
  5. 運用まで続けられるか。導入して終わりではなく、大会ごと、シーズンごとに運用し、改善できる体制があるか。

株式会社スマートスタートは、マラソン、駅伝、トライアスロンをはじめとする大会の計測を担うSmart TIMINGで、計測機材の設置から記録の集計、参加者への記録提供までを一貫して行っています。10年以上にわたる大会計測・運営の経験をもとにした大会運営コンサルでは、運営体制の設計や、エントリー管理を含む事務局業務の代行にも対応しています。また、自社で測定サービスとクラウドを開発・運用してきた体制で、機器・センサーとの連携やデータ基盤の設計を含む受託のシステム開発も行っています。

  • ※ 市場規模の数値は、スポーツ庁「第3期スポーツ基本計画に係る中間評価について」によります。
  • ※ 技術の例とDXのメリットは、スポーツ庁「スポーツ団体のDX推進に向けた手引き・事例集(概要版)」(令和7年3月、令和6年度スポーツ産業の成長促進事業の別添報告書)を参考にしています。

よくある質問

スポーツテックとは何ですか。
スポーツをする・みる・ささえる場面で、センサー、映像、アプリ、データ処理などのデジタル技術を使う製品・サービスの総称です。法律上の定義はありません。この記事では、計測・分析(する)、観戦(みる)、運営(ささえる)の4つの領域に分けて整理しています。
日本のスポーツ市場規模はどのくらいですか。
スポーツ庁の第3期スポーツ基本計画に係る中間評価によると、令和3年のスポーツ市場規模は10.0兆円です。計画は2025年までに15兆円にする目標を掲げていましたが、中間評価では、遅くとも2030年までに15兆円の達成を目指すとされています。
スポーツテックの導入は、どの領域から始めればよいですか。
決まった順番はありません。まず、計測・分析・観戦・運営のどこに課題があるのかを明らかにすることが先です。ただし、エントリーや会員の情報と計測の記録が正しく結びついていないと、分析も速報も公式記録も成り立たないため、運営の基盤となるデータの管理は早い段階で確認しておくことをおすすめします。
反応や判断もスポーツテックで測れますか。
測れます。刺激を見てから動き出すまでの反応時間や、状況に応じた選択の正確さを測る方法があります。ただし、単純な反応と選択を伴う反応では測っているものが違い、方法も統一されていません。結果を練習や選手の評価に使う場合は、どの種類の反応を、どの条件で測ったのかを確かめ、測定の信頼性と妥当性を確認することが大切です。

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