「体育の着替えにいつも時間がかかる」「字が枠からはみ出してしまう」「なわとびだけがどうしてもできない」。こうした様子は、練習が足りない、やる気がないと受け取られがちです。しかし、その背景に、体の動きを組み立てることに関わる発達の特性がある場合があります。それが発達性協調運動障害(以下、DCD)です。
この記事では、国の発達障害情報のポータルサイトや法令、国際的な臨床実践の推奨をもとに、DCDの定義と、支援を考えるときの基本的な考え方を整理します。なお、DCDかどうかの判断(診断)は医療の専門職が行うものです。この記事は、気になる様子に気づいたときに、相談や支援につなげるための基礎知識としてお読みください。
DCDとは——協調した動きの「苦手さ」が生活に影響している状態
まず言葉を定義します。「協調運動」とは、目と手、手と足、左右の手足など、体の複数の部分を組み合わせて、ねらった動きを滑らかに行うことです。ボタンをはめる、はさみで線に沿って切る、ボールを受ける、自転車に乗るといった動作は、どれも協調運動にあたります。
国が運営する発達障害ナビポータルは、DCDを、運動に影響を与える神経の病気(脳性麻痺、筋ジストロフィー、変性疾患)がないのに、協調された運動スキルの獲得や使用が難しく、学校生活や遊びなどの日常生活活動を妨げている状態と説明しています。同じサイトは、DCDは運動の練習不足によるものではなく、中枢神経系の働き方によって起こると推定されている、とも述べています。
呼び方は複数あります。「発達性協調運動症」とも呼ばれ、国の発達障害ナビポータルはこの表記を使っていますが、この記事では、検索で使われることの多い「発達性協調運動障害」と、略称の「DCD」を使います。また、「障害」の語は、本人の欠けている点を指すものではなく、本人の特性と、周りの環境や求められる課題とのあいだに生じている困りごとを指す言葉として使います。
日本の制度の上では、DCDは発達障害者支援法の対象にふくまれます。同法の施行令は、法律が定める発達障害の範囲として「言語の障害、協調運動の障害」などを挙げています。国立障害者リハビリテーションセンターの発達障害情報・支援センターも、発達性協調運動障害が同法に基づく発達障害の定義にふくまれると明記しています。
診断で確かめられる四つの観点
欧州小児障害学会が中心となってまとめた国際的な臨床実践の推奨(Blank ら、2019年)は、米国精神医学会の診断基準(DSM-5)にほぼ沿った四つの基準を示しています。あわせて、診断は基準に沿って評価できる医療の専門職、または複数の専門職のチームが行うことを推奨しています。
| 観点 | 内容(要約) | 周りの大人が気づける様子の例 |
|---|---|---|
| 一 運動スキル | 協調した運動スキルの獲得と実行が、年齢と、身につける機会があったことを考えると、期待される水準を大きく下回る | 同じ年齢の子どもと同じだけ経験しているのに、着替え・食具・書字・ボール遊びに大きな苦手さがある |
| 二 生活への影響 | その苦手さが、身の回りのこと、学校での作業、遊びや余暇などに大きく、続けて影響している | 苦手さのために、時間がかかる、活動を避ける、本人が困っている様子が続いている |
| 三 ほかの要因の除外 | ほかの病気や発達の状態、心理・社会的な状況、文化的な背景では、よりよく説明できない | 見え方や聞こえ方、体の病気などは、医療の専門職による確認が必要 |
| 四 始まりの時期 | 症状は子どもの時期に始まる(気づかれるのが思春期や成人以降になることもある) | 幼いころから似た苦手さがあったかを、保護者が振り返って伝える |
同じ推奨は、幼児期は運動発達の個人差が大きいことから、5歳未満での正式な診断は、苦手さが重い場合に限り、少なくとも3か月以上あけた2回の運動評価をもとに行うよう勧めています。小さいころの「少し不器用かな」という印象だけで決めつけず、経過を見ながら必要に応じて相談することが大切です。
どのくらいの子どもに見られるか——ほかの特性との重なり
DCDは、決してまれな特性ではありません。発達障害ナビポータルは、米国精神医学会の診断基準の改訂版(2022年)を引いて、発生率を5〜8%と紹介しています。国際的な推奨(2019年)は、研究によって2〜20%と幅があるものの、文献で最も多く引用されるのは5〜6%だとしています。数字に幅があるのは、どの基準をどれだけ厳密に当てはめるかで結果が変わるためで、推奨自身もその点を注記しています。
ほかの発達の特性と重なることも多く見られます。発達障害ナビポータルは、これまでの研究で、自閉スペクトラム症のある子どもの89%(軽度の協調運動の問題をふくめた場合)、注意欠如・多動症のある子どもの55.2%に協調運動の問題が見られたという報告を紹介しています。国際的な推奨も、DCDは独立した神経発達症で、注意欠如・多動症、学習の困難、自閉スペクトラム症などと併せて見られることが多いと述べています。
また、苦手さは成長とともに自然になくなるとは限りません。国際的な推奨は、思春期まで続く場合が多く、50〜70%の子どもで運動の困難が続いたとする研究を紹介しています。さらに発達障害ナビポータルは、体育でうまくできなかったり、休み時間の運動遊びを避けたりすることで、劣等感や疎外感が強まりやすく、自己効力感の低さや友人関係の難しさにつながることがあると指摘しています。動きそのものだけでなく、気持ちの面にも目を向ける必要があるのはこのためです。
支援の考え方——二つのアプローチと、目標の立て方
DCDのある子どもへの直接的な関わり方は、大きく二つに分けて説明されます。発達障害ナビポータルと国際的な推奨の説明をもとに、違いを整理します。
| 観点 | 身体機能指向のアプローチ | 活動指向・参加指向のアプローチ |
|---|---|---|
| ねらい | 苦手さの背景にあると考えられる体の機能(感覚、姿勢、バランスなど)に働きかける | 子どもがやりたい・必要としている活動そのもの(ボタンはめ、なわとび、書字など)ができるようになることをめざす |
| 例 | 感覚統合の考え方に基づく関わりなど | 課題指向型の関わり、神経運動課題トレーニング、日常作業遂行に対する認知オリエンテーション(CO-OP)など |
| 国際的な推奨での扱い | 以前の研究の多くはこちらで、体の機能の変化を中心に報告されてきた | 関わりを行う場合は、こちらを用いることが推奨されている(推奨の根拠となる研究の水準も最も高く評価されている) |
国際的な推奨は、目標の立て方についても大切な考え方を示しています。一人ひとりに合わせて目標を立てること、その目標は日常の活動や参加の水準に置くこと、そして子どもと家族、関わる人たちの視点を目標づくりに取り入れることです。あわせて、子ども自身が自分をどう捉えているか(自己概念)や、気持ちの面の状態にも配慮すること、体力(筋力・持久力・柔軟性など)も計画の中で考えることが勧められています。
ここで注意したいのは、どの関わりも「必ずできるようになる」ことを約束するものではない点です。推奨は、関わりの効果を、標準化された方法で、関わりの終わりか、長く続く場合は少なくとも3か月ごとに確かめるよう勧めています。うまくいっているかを記録で確かめ、必要に応じて計画を見直すことが前提になっています。
日常の場面でできる工夫と、記録の役割
専門的な関わりと同じくらい大切なのが、家庭や園・学校での日常の工夫です。発達障害ナビポータルは、周りの大人が、苦手さを努力不足ではなく発達の特性によるものと理解し、叱るのではなく支援することを心がける必要があると述べています。そのうえで、次のような工夫が紹介されています。
- 体操やダンスなど新しい動きは、授業の前にやり方を説明したり、練習したりしておく(体育の予習)
- 動く前に、手本をよく見て、これから行う動きのイメージを持てるようにする
- 鉛筆ホルダーや滑り止めのついた定規など、使いやすい道具を紹介する
- 座面に滑り止めマットを敷くなど、姿勢を保ちやすい環境を整える
- ほかの子どもから低く見られるような場面をつくらないよう配慮する
こうした支援を続けるうえで役に立つのが記録です。「できた・できなかった」だけでなく、どの段階で手間取っているのかを分けて見ると、関わり方を考えやすくなります。たとえばボールを受ける動作も、ボールを見て気づく、どこに来るかを判断する、手を動かすという段階に分けられます。見る・判断する・動くを分けて考える視点は、「考える」と「動く」を同時に扱う考え方や、反応時間の種類の記事でも整理しています。
当社の REAXION の発達支援向けサービスは、見る・気づく・判断する・動くという過程を分けて、反応の速さと正確さを記録し、支援者・保護者・関係機関で共有しやすい形に整理するものです。一人ひとりの状態に合わせて、無理のない難易度に調整できます。ただし、REAXION は医療機器ではなく、DCDの診断や、特性を改善することを目的とするものではありません。数値を目的にせず、日々の観察に記録を加え、支援の計画や関係者との話し合いの材料として使うことを前提にしています。
よくある質問
- 発達性協調運動障害(DCD)とは何ですか。
- 運動に影響を与える神経の病気がないのに、協調した運動スキルの獲得や使用に大きな苦手さがあり、学校生活や遊びなどの日常生活に支障が出ている状態です。運動の練習不足によるものではなく、中枢神経系の働き方によって起こると推定されています。日本では発達障害者支援法の対象にふくまれます。
- 「発達性協調運動障害」と「発達性協調運動症」は違うものですか。
- 同じ状態を指す言葉です。国の発達障害ナビポータルは「発達性協調運動症」、発達障害情報・支援センターは「発達性協調運動障害」の表記を使っています。
- どのくらいの子どもに見られるのですか。
- 国の発達障害ナビポータルは5〜8%、国際的な臨床実践の推奨(2019年)は文献で最も多く引用される値として5〜6%を紹介しています。研究によって2〜20%と幅があり、基準の当てはめ方によって値が変わります。
- 不器用なだけなのか、DCDなのかはどう見分けるのですか。
- 家庭や学校で見分けることはできず、診断は医療の専門職が行います。国際的な推奨は、年齢と経験の機会から見て運動スキルが大きく下回ること、それが生活に続けて影響していること、ほかの病気などで説明できないこと、子どもの時期に始まっていることの四つを確かめるとしています。また、5歳未満での正式な診断は、苦手さが重い場合に限るよう勧めています。気になる様子が続く場合は、かかりつけ医や地域の発達障害者支援センターに相談してください。
- 家庭や学校では、どのような支援ができますか。
- まず、苦手さを努力不足ではなく特性として理解し、叱らずに支援することが土台です。新しい動きを事前に練習しておく、手本を見て動きのイメージを持てるようにする、使いやすい道具や姿勢を保ちやすい環境を整える、ほかの子どもから低く見られる場面をつくらない、といった工夫が国のポータルサイトで紹介されています。本人がやりたいことを目標にし、様子を記録して関係者で共有すると、関わり方を見直しやすくなります。
出典
- 発達性協調運動症|発達障害ナビポータル(外部サイトが新しいタブで開きます)
- 各障害の定義|発達障害情報・支援センター(国立障害者リハビリテーションセンター)(外部サイトが新しいタブで開きます)
- 発達障害者支援法施行令(平成17年政令第150号)|e-Gov法令検索(外部サイトが新しいタブで開きます)
- 発達障害者支援法(平成16年法律第167号)|e-Gov法令検索(外部サイトが新しいタブで開きます)
- 発達障害(神経発達症)|こころの情報サイト(国立精神・神経医療研究センター)(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Blank R, et al. International clinical practice recommendations on the definition, diagnosis, assessment, intervention, and psychosocial aspects of developmental coordination disorder. Dev Med Child Neurol. 2019;61(3):242-285.|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
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