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Occupational Safety

「注意が足りなかった」と一括りにすると、対策が見えなくなります。注意を3つに分け、制度と研究が示している範囲を確かめます。

労働安全衛生

注意機能が落ちると、どのような事故につながるのか。この問いに、制度と研究の範囲で答えるのがこの記事の目的です。結論を先に書くと、注意の低下と事故を一対一で結びつけた統計は、国の資料には見当たりません。示されているのは、注意が要る作業の負担を減らすという考え方と、注意の一種と事故歴との関連を調べた研究です。何が分かっていて、何が分かっていないのかを分けて整理します。

この記事で「注意機能」と呼ぶのは、必要な情報に目を向け、それを保ち、複数のことに振り分ける働きの総称です。注意を含む認知機能の全体像は認知機能とは何かで整理しています。

注意機能は、3つに分けて考える

注意は一つの能力ではありません。現場の事故を考えるときは、次の3つに分けると整理しやすくなります。この区分は注意の研究でよく使われるもので、当社の記事では次の意味で用います。

選択する注意
多くの情報の中から、必要なものに目を向ける働き。たとえば、床の段差や、機械の動きに目を向けること
持続する注意
同じ対象に、一定時間、注意を向け続ける働き。たとえば、監視や検査の作業を続けること
分配する注意
複数のことに同時に注意を向ける働き。たとえば、周囲を見ながら荷物を運ぶこと

事故の場面を考えるときは、「注意が足りなかった」と一括りにせず、この3つのどれが関わっていたのかを分けて見ます。対策がそれぞれ異なるためです。

指針は、注意をどう扱っているか

高年齢者の労働災害防止のための指針(令和8年2月10日 公示第1号)は、作業管理の共通的な事項として、注意に関わる2つの対策例を挙げています。1つは、注意力や集中力を必要とする作業について作業時間を考慮すること。もう1つは、注意力や判断力の低下による災害を防止するため、複数の作業を同時に進行させる場合の負担や、優先順位の判断を伴う作業の負担を考慮することです。前者は持続する注意、後者は分配する注意に近い内容と読めます。

同日付けの通達(基発0210第1号)は、さらに踏み込んでいます。注意力や判断力の低下による災害の防止については、複数の作業を同時進行させるような負担はできるだけ避けることが望ましく、同時進行させる場合は、管理監督者が優先順位を判断したうえで作業指示をすることが望ましい、としています。

視覚の面では、危険を知らせる設備について、有効視野を考慮した警告・注意機器(パトライト等)を採用することが例示されています。有効視野とは、視線を動かさずに、注意を向けて情報を取り込める範囲のことです。警報が視野の端にあるだけでは、気づかれにくくなる場合があるという考え方が背景にあります。

通達に添えられた自主点検のチェックリストにも、関連する項目があります。瞬時の判断を必要とする作業をなくすこと、高度な注意の集中を必要とする作業の継続時間が長くなりすぎないようにすること、といった内容です。

注意が関わると考えられる場面

国の資料は、事故を注意の低下の結果とは分類していません。厚生労働省の職場のあんぜんサイトが示す高年齢者の労働災害の原因は、「体のバランスが思うようにとれなかった」「気持ちが先走り体がついて行かなかった」「手足腰が弱っていた」といった運動機能に関わるものです。製造業では、50歳以上の労働災害のうち、事故の型別で「転倒」の占める割合が52.7%と最も高いとされています。

したがって、以下は統計で裏づけられた因果ではなく、3つの注意がそれぞれ必要になる場面を、当社が整理したものです。実際の事故の原因は、背後要因まで含めて個別に調べる必要があります。事故の型や年齢による差は、労災の統計と転倒災害の発生パターンで扱っています。

注意の種類要る場面の例見直しの方向の例
選択する注意暗い通路で段差に気づく/機械の動きから目を離さない照度の確保、段差の表示、通路の整理
持続する注意検査・監視・長距離の運転を続ける連続作業時間の上限、休憩、作業の交代
分配する注意周囲を見ながら荷物を運ぶ/複数の作業を並行する同時進行の削減、優先順位の指示

あんぜんサイトは、加齢により暗い場所での視認性が低下し、明るさが急に変わる場所では目が慣れるまでにかなりの時間がかかるとも説明しています。薄暗い場所で段差に気づきにくくなるのは、視覚の問題であると同時に、選択する注意が働く前提の情報が届きにくくなる状態でもあります。歩きながら別のことを考える課題が使われる理由は、デュアルタスクの記事で扱っています。

研究が示していること、示していないこと

注意と事故の関連を調べた研究として、よく知られているのが、Ball らが1993年に Investigative Ophthalmology & Visual Science に発表した報告です。55歳から90歳の運転者294名を対象に、視力などの視覚機能、認知機能の検査と並べて、有効視野の大きさを測りました。事故の記録は州の記録から得ています。報告によれば、有効視野が著しく縮小していた人は、検査前の5年間に事故を1回以上経験していた割合が約6倍でした。年齢や視力、認知機能の検査も事故と関連していましたが、事故のあった人と、なかった人を見分ける力は有効視野の検査より低かったとされています。

この研究から言えることには、限りがあります。次の点に注意が必要です。

  • 対象は運転者であり、職場の作業者ではない。運転で得られた結果が、そのまま職場の作業に当てはまるとは限らない
  • 事故の記録は検査の前の5年間のもので、過去の事故と測定時の有効視野を比べている。注意の低下が事故を招いたのかは、この設計では分からない
  • 対象者は年齢と事故の頻度で層別して集められている。検査の感度89%、特異度81%という数字は、この集め方の中での値であり、一般の集団で同じ精度が出るという意味ではない
  • 測られたのは有効視野という視覚的な注意の一側面であり、注意機能の全体ではない

確かめられているのは、有効視野の縮小と過去の事故経験との間に関連が見られた、という範囲です。注意の測定値から、これから事故を起こす人を見分けられるとは、この研究は述べていません。論文の著者自身も、年齢だけで運転を制限する政策には科学的根拠がないという趣旨を結論に書いています。

測る前に、作業と環境を見直す

指針は、リスクを減らす措置の優先順位を、危険な作業の廃止・変更、手すりの設置や段差の解消などの工学的対策、マニュアルの整備や教育などの管理的対策、保護具の使用の順に示しています。注意の問題も、この順序で考えます。注意の測定は、この順序の外側に置かれるものではなく、作業の見直しを助ける材料です。

  1. 事故やヒヤリハットの事例から、どの場面で、どの種類の注意が要ったかを整理する
  2. 作業の側を見直す。同時進行の作業を減らす、連続して集中する時間を区切る、表示や警報を目につく位置に置く、といった対策を先に検討する
  3. それでも本人の状態を知りたい場面で、測定を補助的に使う。測るのは、整理した場面に対応する注意の種類にする
  4. 測定条件を固定し、1回の結果で判断しない。測定の考え方は測定の信頼性と妥当性で、方法の選び方は認知機能の測定方法の種類で整理している
  5. 結果は人を選別するためではなく、作業の割り当てや環境の見直しの材料として、本人と共有する

反応の測定を労働安全でどう位置づけるかは反応時間の記事で、転倒対策の全体像は職場でできる転倒災害の対策で扱っています。

  • ※ 本記事は2026年10月時点で公開されている資料にもとづいています。制度は改正されることがあるため、実施にあたっては最新の情報をご確認ください。
  • ※ 3種類の注意の区分と、表に示した場面の対応は、事故を整理するための当社の用法であり、国の統計や指針が示した分類ではありません。
  • ※ Ball らの研究は、掲載誌の抄録で確認できる範囲を紹介しています。測定や解析の詳細は原文をご確認ください。
  • ※ 注意機能の測定は、状態を数値として把握するためのものであり、事故や転倒の予防を保証するものではありません。医学的な判断は医師・産業医等の専門職が行います。

よくある質問

注意機能が低下すると、事故が増えますか。
国の資料には、注意の低下と事故の増加を直接結びつけた統計は見当たりません。指針は、注意力や判断力の低下による災害を防ぐため、作業時間や同時進行の作業の負担に配慮することを求めています。研究では、有効視野の縮小と過去の事故経験との関連が運転者で報告されていますが、因果関係を示すものではありません。
注意力の検査で、事故を起こしやすい人は分かりますか。
分かりません。有効視野と事故歴を調べた研究も、過去の事故と測定値の関連を示したにとどまり、これから事故を起こす人を見分けられるとは述べていません。測定は、人を選別するためではなく、作業や環境を見直す材料として使います。
注意の測定は、法律で求められていますか。
求められていません。通達は、体力チェックの範囲に感覚機能や認知機能等を含めて差し支えないとしていますが、これは含めてよいという許容であり、測定の義務づけではありません。
まず何から見直せばよいですか。
測定よりも、作業の側の見直しが先です。指針は、複数の作業の同時進行を避けること、注意の集中を要する作業の時間を考慮すること、危険を知らせる表示や警報を目につきやすくすることなどを例示しています。
若い従業員の注意は問題にならないのですか。
年代を限った話ではありません。通達は、身体機能の低下は若い頃から始まるとの調査結果もあることから、高年齢者だけでなく青年期、壮年期から体力チェックを実施することが望ましいとしています。複数の作業の同時進行を減らす対策は、年代を問わず意味を持ちます。

出典

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