この記事でいうウェアラブル機器とは、腕時計型やリング型など、身体に付けたまま日常生活の中で記録を続ける機器を指します。内部には、動きをとらえる加速度センサー、皮膚に光を当てて血流の変化をとらえる光学式のセンサー、温度センサーなどが入っています。機器そのものが数値を直接出しているのではなく、センサーの信号をもとに、製品ごとの計算方法で歩数や心拍数などを推定しています。
ヘルスケアテックという領域の全体像はヘルスケアテックとはで整理しました。ここでは、そのうち「測る」技術の代表であるウェアラブル機器について、何がどこまで測れるのかを、精度を検証した研究の要旨をもとにまとめます。
ウェアラブル機器で記録できる主な項目
主な項目と、研究で報告されている精度の傾向を表にまとめます。精度は製品や機種、使う場面で変わるため、目安として読んでください。
| 項目 | 主なセンサー | 研究で報告されている傾向 |
|---|---|---|
| 歩数 | 加速度センサー | 実験室の条件では、主要な製品の一部でおおむね正確 |
| 心拍数 | 光学式センサー | 安静時や一定の運動ではおおむね正確。運動の切り替わりでは機器による差が出る |
| 消費エネルギー | 加速度と心拍からの推定 | 158件の研究をまとめた総説で、正確といえる製品はなかった |
| 睡眠 | 加速度、心拍とその変動、皮膚温など | 研究や臨床での利用が始まっているが、評価の標準的な方法が定まっていない |
| 脈の不規則さ | 光学式センサー | 大規模な研究で、通知を受けた人の一部に心電図で不整脈が確認された |
歩数と心拍——比較的よく測れるが、条件で変わる
Fuller らは2020年に、2019年5月までに英語で発表された158件の論文をまとめ、市販の9つのブランドの機器について、歩数、心拍数、消費エネルギーの精度を整理しました。実験室の条件では、歩数はいくつかのブランドでおおむね正確に測れており、心拍数はブランドによってばらつきがあり、実際より低めに出る傾向の製品もありました。消費エネルギーは、どのブランドも正確とはいえませんでした。著者らは、製品の改良や新機種の発売が続くため、新しい検証が必要だとも述べています。
心拍数の誤差がどこから生じるのかを調べた研究もあります。光学式のセンサーは、皮膚の下の血液量の変化を光でとらえる方法で、光電式容積脈波と呼ばれます。Bent らは2020年に、誤差の原因として考えられてきた肌の色、体の動き、ほかの信号の混入の3つについて、一般向けと研究用の機器を使って調べました。その結果、肌の色による精度の差は統計的には認められませんでしたが、機器の間や活動の種類の間で差があり、運動中の誤差は安静時より平均で30%大きくなっていました。著者らは、どの機器も安静時と心拍が上がった状態が続く場面ではおおむね正確だが、活動が切り替わる場面での追従には機器による差があるとまとめています。
数値が実際の値にどれだけ近いか、同じ条件でどれだけ同じ値が出るかは、測定を使う前に必ず確かめたい点です。この考え方は測定の信頼性と妥当性で整理しています。
睡眠と不整脈の通知——広がる用途と、残る課題
de Zambotti らは2019年の総説で、一般向けの睡眠の記録機器が、心拍とその変動、皮膚の電気的な性質、皮膚温、活動量などの信号を一日中記録できるようになったことを紹介しています。一方で、研究者の間でも使い方の指針がほとんどなく、妥当性について混乱や議論があると指摘しました。研究や臨床で使う前に考慮すべき点として、計算方法が公開されていないこと、機器の不具合、本体の更新(ファームウェアの更新)を挙げ、性能を評価する標準的な方法が必要だとしています。
脈の不規則さの通知については、大規模な研究があります。Perez らが2019年に報告した研究では、8か月で41万9,297人が参加し、記録の期間の中央値117日の間に、2,161人(0.52%)が脈の不規則さの通知を受けました。そのうち、解析できる心電図の貼り付け型記録を返送した450人で、心房細動が確認されたのは34%でした。この心電図の記録は、通知から平均13日後に付けられたものです。また、心電図を付けている間に再び通知があった場面では、84%で同時に心電図でも心房細動が記録されていました。この研究は機器の製造会社の資金で行われています。
この結果から分かるのは、通知を受ける人は少なく、通知を受けた人の一部で実際に不整脈が確認された、ということです。通知は医療機関に相談するきっかけになりますが、診断そのものではありません。
医療機器になるもの、ならないもの
日本では、パソコンやスマートフォンで動くプログラムであっても、病気の診断や治療を目的とするものは、医薬品医療機器等法の規制の対象になります。厚生労働省は、規制の対象になる医療機器プログラムを、医療機器としての目的を持ち、意図したとおりに機能しない場合に患者や使用者の生命や健康に影響を与えるおそれがあるもの、と説明しています(影響を与えるおそれがほとんどない一般医療機器に相当するものを除く)。
どのようなプログラムが該当するかについては、厚生労働省が「プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン」と判断の事例、事例のデータベースを公開しています。ウェアラブル機器やアプリを企画・開発するときは、同じ測定値を扱う場合でも、健康管理のための記録として示すのか、病気の可能性を判定するのかで扱いが変わるため、早い段階でこれらの資料を確認しておく必要があります。厚生労働省は、医療機器プログラムに関する相談窓口も設けています。
まだ難しいこと——反応・判断と、個人の判断への使い方
ウェアラブル機器のセンサーは、身体の動きや生体の信号を受け身で記録します。そのため、目の前の刺激にどれだけ早く正確に反応し、判断できるかといった、課題を与えてはじめて分かる働きを直接測ることはできません。こうした働きは、決められた課題に取り組んでもらう測定で記録します。測定方法の種類は認知機能の測定方法の種類と選び方で、反応時間の種類は反応時間とはで扱っています。
もう一つの難しさは、個人の判断への使い方です。精度の研究は、多くの人を対象に、基準となる測定と比べた平均的な一致を示すものです。ある人の、ある日の数値がどれだけ正確かまでは保証しません。日々の数値の上下に一喜一憂するよりも、同じ機器、同じ付け方で記録を続け、推移として見るほうが現実的です。推移の見方については認知機能の「変化」に気づくにはも参考になります。
事業で使うときに確認すること
企業や自治体がウェアラブル機器のデータを事業や施策に使うとき、あるいは機器と連携するサービスを開発するときは、次の点を最初に確認しておくと、あとで困ることが減ります。
- 何を知りたいのかを先に決める。歩数のように比較的よく測れる項目と、消費エネルギーのように誤差が大きい項目を同じ重みで扱わない
- 使う機種の検証結果を確かめる。精度は製品や機種で異なり、更新で計算方法が変わることもある
- 機種や付け方、記録の期間をそろえる。異なる機種の数値は、そのまま比べられない
- 示し方を決める。健康管理の記録として示すのか、病気の可能性を判定するのかで、規制上の扱いが変わりうる
- 健康に関するデータの取得・保管・共有の手順を、本人への説明と同意も含めて設計する
株式会社スマートスタートは、自社で測定サービスとクラウドを開発・運用してきた体制で、受託のシステム開発を行っています。Webアプリケーションや業務システム、機器と連携する仕組みまで、要件の整理から設計・開発・リリースまでを担当し、要件が固まりきらない段階からご相談いただけます。また、身体に付けるセンサーでは測りにくい、見る・認知する・判断する・動くという一連の反応を短時間で測定し、数値として示す REAXION Well も提供しています。
- ※ 本記事は2026年11月時点で公開されている論文の要旨と、厚生労働省のウェブサイトにもとづいています。
- ※ 精度の研究は発表時点の機種を対象にしており、現在の機種に同じ結果が当てはまるとは限りません。
- ※ 特定の製品の精度を評価・推奨するものではありません。また、医学的な診断や助言に代わるものではありません。
よくある質問
- ウェアラブル機器の歩数や心拍数は正確ですか。
- 158件の研究をまとめた総説では、実験室の条件で、歩数はいくつかのブランドでおおむね正確、心拍数はブランドによってばらつきがあると報告されています。心拍数は運動中に誤差が大きくなり、別の研究では運動中の誤差が安静時より平均で30%大きくなっていました。
- 消費カロリーの表示はどのくらい信用できますか。
- 同じ総説では、消費エネルギーを正確に測れているといえるブランドはありませんでした。目安として推移を見る程度にとどめ、厳密な管理には別の方法を検討するのが無難です。
- 腕時計型の機器で不整脈の通知が来たら、不整脈なのですか。
- 通知だけでは分かりません。41万人あまりが参加した研究では、通知を受けた人のうち、心電図の記録を返送した人で心房細動が確認されたのは34%でした。通知は医療機関に相談するきっかけとして扱い、判断は医師に委ねてください。
- ウェアラブル機器で認知機能や反応の速さは測れますか。
- 身体に付けるセンサーは動きや生体の信号を受け身で記録するもので、刺激に対してどれだけ早く正確に反応し判断できるかを直接測るものではありません。こうした働きは、決められた課題に取り組んでもらう測定で記録します。
- 健康アプリを開発するとき、医療機器になるかどうかはどう確認しますか。
- 厚生労働省が「プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン」と判断事例、事例のデータベースを公開しており、相談窓口も設けています。病気の診断や治療を目的とするかどうかが分かれ目になるため、企画の早い段階で確認しておくことをおすすめします。
出典
- Fuller D, et al. Reliability and Validity of Commercially Available Wearable Devices for Measuring Steps, Energy Expenditure, and Heart Rate: Systematic Review (2020)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Bent B, et al. Investigating sources of inaccuracy in wearable optical heart rate sensors (2020)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
- de Zambotti M, et al. Wearable Sleep Technology in Clinical and Research Settings (2019)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
- Perez MV, et al. Large-Scale Assessment of a Smartwatch to Identify Atrial Fibrillation (2019)|PubMed(外部サイトが新しいタブで開きます)
- 医療機器プログラムについて|厚生労働省(外部サイトが新しいタブで開きます)
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