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Occupational Safety

死亡災害は減っているのに、けがをする人は増えている。その差を埋めているのが高年齢労働者の災害です。統計は「なぜ」をどこまで説明してくれるのでしょうか。

労働安全衛生

厚生労働省が2026年5月に公表した令和7年の労働災害発生状況(確定値)によれば、労働災害による死亡者数は700人で、前年から6.2%減り、過去最少を更新しました。一方、休業4日以上の死傷者数は135,333人です。前年の135,718人からは0.3%の減少ですが、2015年(平成27年)の116,311人から10年で約2万人増えており、高止まりが続いています。一貫して減ってきた死亡者数とは対照的です。

この増加を年齢別に見ると、60歳以上の労働者が大きな部分を占めています。厚生労働省の「第14次労働災害防止計画」は、死傷災害が増えている要因の第一に「労働災害発生率(死傷年千人率)が高い60歳以上の高年齢労働者が増加していること」を挙げました。

この記事では、厚生労働省の統計資料を一次情報として、高年齢労働者の労働災害がなぜ増えているのかを、「働く高年齢者が増えた」という構成の変化と、「年齢が上がるほど発生率が上がる」という個人側の変化に分けて整理します。そのうえで、事故の型別に何が起きているかを見て、事業場で統計をどう読めばよいかを考えます。

死傷者の3割が60歳以上——就労割合を大きく上回る

まず現状の数字を押さえます。令和7年の休業4日以上の死傷者135,333人のうち、60歳以上は42,318人で31.3%を占めています。65歳以上に絞っても25,463人(18.8%)、70歳以上で13,382人(9.9%)です。年齢階層別に最も多いのは55〜59歳の18,424人で、50歳以上を合わせると全体の57.7%になります。

年齢階層死傷者数(人)全体に占める割合
19歳以下2,4321.8%
20〜29歳16,42512.1%
30〜39歳15,84811.7%
40〜49歳22,49316.6%
50〜59歳35,81726.5%
60〜64歳16,85512.5%
65〜69歳12,0818.9%
70〜74歳8,2316.1%
75歳以上5,1513.8%
合計135,333100%

この3割という数字を、働いている人の構成と比べてみます。厚生労働省の分析資料によれば、令和6年の雇用者全体に占める60歳以上の割合は19.1%でした。同じ年の死傷者に占める60歳以上の割合は30.0%です。働く人の2割弱が、けがをする人の3割を占めている、という構図です。

この開きは、近年広がってきました。第14次労働災害防止計画は令和3年の時点で「全年齢に占める60歳以上の高年齢労働者の割合は約2割」「休業4日以上の死傷者数に占める割合は25%を超えている」と記していました。令和5年には18.7%に対して29.3%、令和6年には19.1%に対して30.0%、令和7年には死傷者に占める割合が31.3%となっています。就労割合の伸びよりも、被災割合の伸びのほうが速いことがわかります。

理由の一つ目——働く高年齢者が増えた

増加の理由として最も単純なのは、働く高年齢者そのものが増えたことです。雇用者数は2003年(平成15年)の5,355万人から2024年(令和6年)の6,123万人へと増え、そのなかで60歳以上の比率が上がってきました。令和5年時点で60歳以上の雇用者は1,138万人です。定年の引き上げや継続雇用の広がり、70歳までの就業確保の努力義務化が背景にあります。

労働者の年齢構成が変わると、災害の発生率が同じでも、災害の件数は変わります。発生率の高い年齢層の人数が増えれば、全体の件数は増えるためです。厚生労働省はこの影響を切り分けるために、労働災害の発生率(度数率)を平成27年の年齢構成に固定して計算し直す「年齢調整」を行っています。

その結果を見ると、男女計の死傷度数率は平成27年の1.081から令和6年の1.237へ上がっていますが、年齢調整後の値は1.161にとどまります。厚生労働省はこれを、労働者人口構成の高齢化により度数率が「相当程度上振れしている」と表現しています。上昇分のうち、おおまかに半分程度が年齢構成の変化で説明できる、という読み方ができます。

休業4日以上の死傷災害の度数率について、実際の値と年齢調整後の値を平成27年・平成28年・令和5年・令和6年の4時点で並べた図。実際の値は1.081から1.237へ上がるが、年齢調整後は1.081から1.161にとどまり、差の部分が労働者の高齢化による上振れであることを示している。
度数率の上昇の一部は、労働者の年齢構成が変わったことで説明できる。ただし年齢調整後も上昇は残る。

ただし、年齢調整後も度数率は上昇しています。つまり、年齢構成の変化だけでは説明しきれない部分が残ります。次の理由がそこに関わります。

理由の二つ目——年齢が上がるほど発生率が上がる

高年齢労働者は人数が多いだけでなく、一人あたりの発生率も高くなっています。令和6年の年齢階層別の死傷度数率を見ると、25〜29歳の0.709を底に、年齢とともに段階的に上がり、60〜64歳で1.935、65〜69歳で2.652、70〜74歳で3.079、75歳以上で3.236に達します。60歳以上をまとめた死傷度数率は2.41で、30代と比べると男性で約2倍、女性で約5倍です(同じ年の60歳以上の死傷年千人率は4.00です)。

令和6年の年齢階層別の死傷度数率を棒グラフにした図。19歳以下が2.236と高く、25〜29歳の0.709を底に、30代から50代へ段階的に上がり、60〜64歳1.935、65〜69歳2.652、70〜74歳3.079、75歳以上3.236と高年齢側で急に高くなる形をしている。
発生率は20代後半を底に、年齢とともに上がる。19歳以下も高く、経験の浅さが別の要因として効いている。

注目したいのは、この発生率が年齢層によっては近年さらに上がっている点です。平成27年と令和6年を比べると、65〜69歳は2.140から2.652へ、70〜74歳は2.351から3.079へ、75歳以上は2.190から3.236へ上がっており、60〜64歳の1.940から1.935という横ばいとは対照的です。厚生労働省は、65歳以下は横ばいであるが「特に女性の65歳以上において、死傷災害発生率が増加傾向にある」と分析しています。男性の度数率が横ばいか若干の増加にとどまるのに対し、女性は年齢調整後の値でもほぼ一貫して上昇しています。

もう一つ、経験年数の影響があります。第14次労働災害防止計画は、経験1年未満の労働者の死傷年千人率が1年以上の労働者より高く、特に50〜59歳では3倍近い差があると指摘しています。高年齢で新しい職場や業務に就く人が増えれば、年齢の要因と経験の浅さの要因が重なります。年齢階層別のグラフで19歳以下の発生率が高いのも、同じ経験の要因が表れたものと考えられます。

何が起きているのか——転倒が最多で、高年齢の女性に集中する

事故の型別に見ると、令和7年に最も多いのは「転倒」の37,195人(27.5%)で、前年より2.2%増えています。次いで腰痛などの「動作の反動・無理な動作」が22,166人(16.4%)、「墜落・転落」が20,864人(15.4%)です。転倒は令和5年に36,058人、令和6年に36,378人と増え続けており、第14次労働災害防止計画の期間に入ってからも歯止めがかかっていません。

この転倒災害が、高年齢層、なかでも女性に集中しています。厚生労働省の令和5年の分析では、転倒災害の死傷年千人率は女性の25〜29歳が0.142であるのに対し、60〜64歳は2.031、65〜69歳は2.643、70〜74歳は2.887です。男性も60〜64歳で0.832と25〜29歳(0.214)の約4倍ですが、女性の上がり方はそれを大きく上回ります。「転倒による骨折等」に絞った令和6年の度数率では、女性の60歳以上は20代の約19.5倍です。厚生労働省はこの分析で、高年齢労働者の増加、特に中高年齢の女性労働者の増加が転倒災害増加の主要因だと述べています。

事故の型年齢による差(令和6年・度数率)厚生労働省の分析
転倒による骨折等女性の60歳以上は20代の約19.5倍加齢に応じて著しく上昇。骨密度の低下が顕著な中高年齢の女性で極めて高い
墜落・転落男性の60歳以上は20代の約3.6倍特に60歳以上で、加齢に応じて著しく上昇
動作の反動・無理な動作——加齢に応じて上昇する傾向
はさまれ・巻き込まれ——加齢に応じて上昇する傾向

けがの重さにも年齢差があります。休業見込み期間は年齢が上がるほど長くなり、転倒による平均休業見込日数は令和5年で48.5日でした。第14次労働災害防止計画はこれを2027年までに40日以下にする目標を掲げていますが、令和5年の値は前年より1日長くなっています。

業種で見ると、高年齢者の災害は第三次産業に多くあります。令和7年の死傷者に占める60歳以上の割合は、製造業で24.4%、建設業で25.0%であるのに対し、小売業で37.9%、社会福祉施設で39.1%、清掃・と畜で50.0%、警備業では57.0%に達します。第14次労働災害防止計画は、第三次産業への就労者の増加に伴って、機械設備に起因する災害に代わり、対策のノウハウが蓄積されていない「労働者の作業行動に起因する災害」が増えていると指摘しています。転倒はその代表です。

統計が示すのは「年齢」だが、対策の対象は「特性」

ここまでの統計をまとめると、高年齢労働者の労災が増えている理由は、働く高年齢者が増えたこと(構成の変化)と、年齢が上がるほど災害の発生率が上がること(個人の変化)の二つに分けられます。前者は社会の変化であり、事業場で止められるものではありません。事業場が手を打てるのは後者です。

ただし、統計は「年齢」でしか切れません。同じ65歳でも、転倒しやすい人とそうでない人がいます。年齢階層別の発生率は集団の平均であって、個人の状態を表すものではありません。第14次労働災害防止計画も、転倒災害の発生率は「身体機能の影響も大きい」と述べ、骨密度、ロコモ度、視力といった発生リスクの「見える化」を進めるとしています。年齢の背後にある特性を測ることが、統計の次の段階です。

2026年4月に適用された「高年齢者の労働災害防止のための指針」は、事業者が考慮すべき高年齢者の特性を「筋力、バランス能力、敏捷性、全身持久力、感覚機能及び認知機能の低下等」と列挙しています。転倒という事象を分解すると、段差や濡れた床に「気づく」、踏み出しを「判断する」、身体を「動かす」という連鎖があり、筋力やバランス能力だけでなく、感覚機能と認知機能が関わります。統計に表れる転倒災害の集中を、事業場で個人の特性に翻訳するには、これら6つの特性を測る設計が要ります。

統計は、対策の優先順位を決めるための材料です。60歳以上が死傷者の3割を占め、転倒が最多で、女性の高年齢層で発生率が突出しているという事実は、どこから手を付けるかを教えてくれます。ただし、その先の「誰に、何を」は、統計ではなく自社の測定で決めることになります。

  • 本記事は2026年9月時点で厚生労働省が公表している統計と計画にもとづいています。令和7年の年齢別の分析(度数率、年齢調整値)は執筆時点で未公表のため、令和6年までの値を用いています。
  • 死傷者数は労働者死傷病報告にもとづく休業4日以上の死傷者数で、新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除いています。通勤災害は含みません。
  • 度数率は死傷者数を延べ労働時間数で割って100万を掛けた値、死傷年千人率は死傷者数を労働者数で割って1,000を掛けた値です。資料により用いる指標が異なるため、記事内では出典ごとに指標名を記しています。
  • 統計値は集団の傾向を示すものであり、個人のリスクを示すものではありません。測定は健康状態の診断ではなく、医学的な判断は産業医等の専門職が行います。

よくある質問

高年齢労働者の労働災害は、本当に増えているのですか。
長期で見ると増えています。休業4日以上の死傷者数は2015年の116,311人から2024年の135,718人へ10年で約2万人増え、そのうち60歳以上の占める割合は令和3年の25%超から令和7年の31.3%へ上がっています。直近の令和7年は135,333人で前年比0.3%減となりましたが、高止まりの水準は変わりません。一方、死亡者数は全年齢で減少を続けており、令和7年は700人と過去最少です。「死亡は減り、けがは減らない」という二つの動きが同時に起きています。
増えているのは、単に高年齢の働き手が増えたからではないのですか。
それが理由の一つであることは確かです。厚生労働省が労働者の年齢構成を平成27年に固定して計算した年齢調整値では、令和6年の死傷度数率は実際の1.237に対して1.161にとどまり、上昇分のおおまかに半分程度が年齢構成の変化で説明できます。ただし年齢調整後も上昇は残っており、65歳以上、特に女性では発生率そのものが上がっています。人数の増加だけでは説明しきれません。
どのような災害が増えているのですか。
最も多いのは転倒で、令和7年は37,195人と死傷者全体の27.5%を占め、前年より2.2%増えました。転倒災害の発生率は年齢と性別で大きく異なり、令和5年の死傷年千人率は女性の60〜64歳が2.031で、25〜29歳の0.142の約14倍です。厚生労働省は、高年齢労働者の増加、特に中高年齢の女性労働者の増加が転倒災害増加の主要因だと分析しています。墜落・転落、動作の反動・無理な動作、はさまれ・巻き込まれも、加齢に応じて発生率が上がる傾向があります。
自社の年齢構成は全国と比べてどう見ればよいですか。
令和6年の雇用者全体に占める60歳以上の割合は19.1%です。自社の60歳以上の比率がこれより高ければ、全国平均より高年齢者の災害リスクを抱えていると考えられます。ただし業種による違いが大きく、令和7年の死傷者に占める60歳以上の割合は、製造業で24.4%、小売業で37.9%、清掃・と畜で50.0%、警備業で57.0%です。同業種の数値と比べることをおすすめします。
統計を見たあと、事業場では何から始めればよいですか。
自社の災害とヒヤリハットを、年齢・事故の型・経験年数で集計するところからです。転倒が多いなら、その転倒がどの作業で起きているかを見ます。次に、その作業に必要な特性を決め、対象者の状態を測ります。指針は筋力、バランス能力、敏捷性、全身持久力、感覚機能、認知機能の6つを列挙しており、体力チェックの範囲に感覚機能や認知機能を含めて差し支えないと通達も述べています。測定結果は、就業上の措置や業務のマッチングにつなげる手順を決めたうえで扱います。

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