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Occupational Safety

転倒は「転ぶだけ」ではありません。休業4日以上の労働災害の4件に1件を占め、平均休業見込日数は48日を超えます。まず、どこで、どのように、誰に起きているのかを分解します。

労働安全衛生

厚生労働省が2026年5月に公表した令和7年の労働災害発生状況(確定値)によれば、休業4日以上の死傷災害のうち「転倒」は37,195人で、事故の型別で最も多く、全体の27.5%を占めています。令和5年の36,058人、令和6年の36,378人から、増加が続いています。

転倒は、機械や高所のような「危険だと分かる場所」で起きるとは限りません。厚生労働省の「高年齢者の労働災害防止のための指針」は、高年齢者にみられる転倒災害は「危険に感じられない場所で発生していることも多い」と述べています。通路のわずかな段差、出入口の濡れた床、抱えた荷物で見えない足元。日常の動作のなかに原因が潜んでいるため、対策の入口は「どのようなパターンで起きているか」を知ることになります。

この記事では、厚生労働省の統計と「STOP!転倒災害プロジェクト」の資料、そして2026年4月に適用された指針を一次情報として、転倒災害がどのようなパターンで、いつ、誰に起きているのかを整理します。職場で打てる具体的な対策は、別の記事にまとめています。

転倒災害の現在地——最も多い事故の型で、休業は長い

まず数字を押さえます。令和7年の休業4日以上の死傷者135,333人のうち、転倒は37,195人(27.5%)で、次に多い腰痛などの「動作の反動・無理な動作」22,166人(16.4%)、「墜落・転落」20,864人(15.4%)を大きく引き離しています。厚生労働省は、転倒・墜落・転落・動作の反動を「労働者の行動に起因する災害」とまとめ、その割合は増加傾向にあり令和6年には全体の58%を占めたと分析しています。

けがの重さも見過ごせません。令和5年の転倒による平均休業見込日数は48.5日で、前年の47.5日から1日延びました。第14次労働災害防止計画(2023〜2027年度)は、この日数を2027年までに40日以下にすること、そして年齢層別の転倒の死傷年千人率の増加に歯止めをかけることを成果の指標に掲げています。転倒は「転ぶだけ」の軽い事故ではなく、1か月以上職場を離れる災害の代表例です。

業種別では第三次産業に集中しています。令和5年の分析では、小売業の死傷災害のうち転倒は36.9%、清掃・と畜業で34.1%、社会福祉施設で34.0%、飲食店で30.8%を占め、いずれの業種でも最多または第2位の事故の型です。製造業でも転倒は年5,000件台、建設業でも1,600件前後で発生しており、業種を問わない災害でもあります。

発生パターンは3つ——滑り、つまずき、踏み外し

厚生労働省の「STOP!転倒災害プロジェクト」は、転倒災害の典型的なパターンを「滑り」「つまずき」「踏み外し」の3つに分け、「いずれもちょっとした原因が大きな災害につながっている」と説明しています。それぞれの主な原因は次のとおりです。

パターン主な原因(厚生労働省の整理)起きやすい場面の例
滑り床が滑りやすい素材である、あるいは凍結している/床に水や油が飛散している/ビニールや紙など滑りやすい異物が床に落ちている厨房や洗い場の出入口、雨の日の搬入口、冬季の屋外通路
つまずき床の凹凸や段差/床に放置された荷物や商品などバックヤードの段差、通路に仮置きした台車や段ボール
踏み外し大きな荷物を抱えるなど、足元が見えない状態での作業荷物を抱えて階段を下りる、脚立から降りる
転倒災害の3つのパターン(滑り・つまずき・踏み外し)について、厚生労働省が挙げる主な原因と、指針やSTOP!転倒災害プロジェクトが示す対策を対応させた図。滑りには清掃・防滑素材・防滑靴、つまずきには段差解消・整理整頓・靴の屈曲性、踏み外しには荷物の小口化・照度の確保・手すりが対応している。
3つのパターンは原因が異なるため、対策も異なる。自社の転倒がどのパターンで起きているかを、まず分ける。

この3分類が実務で役に立つのは、原因が違えば対策も違うからです。滑りは床と靴の関係、つまずきは段差と放置物と足の上がり方、踏み外しは視界と姿勢の問題です。ヒヤリハットや災害の報告を「転倒」の一語で集計していると、この違いが見えません。まず自社の転倒をこの3つに分けて数えることが、対策の優先順位を決める最初の作業になります。

季節と時間帯にも偏りがある

季節と時間帯にも偏りがあります。厚生労働省は冬季に「積雪や路面の凍結などにより転倒災害が増加する傾向」があるとして、天気予報への注意、時間に余裕を持った行動、駐車場の除雪・融雪、危険マップの共有の4点を挙げています。また、忙しい時間帯には4S活動(整理・整頓・清掃・清潔)がおろそかになり、作業を急ぐあまり注意力が散漫になることで転倒リスクが増すと指摘しています。

冬季の対策として厚生労働省が挙げているのは、天気予報への注意、時間に余裕を持った行動、駐車場の除雪・融雪、危険マップの共有の4点です。いずれも設備の工事を伴わないため、寒冷地でなくても、降雪や凍結が見込まれる時期の前に確認しておく価値があります。

「場所」だけでなく「人」——加齢で変わる平衡性・敏捷性・視認性

同じ段差でも、転ぶ人と転ばない人がいます。厚生労働省は「加齢と転倒災害」として、高年齢労働者では身体強度や運動機能が低下するため転倒しやすく、「わずかなつまずきであっても被災の重篤度が高まる傾向」があると説明し、具体的に3つの機能を挙げています。

平衡性
足腰の筋力が衰え、歩行中に足を上げる高さが低くなると躓きやすくなる。身体平衡機能の指標である閉眼片足立ち時間は、年齢を重ねると大きく低下する。
敏捷性
危険を迅速に回避するための危険回避能力の指標である全身敏捷性(ジャンプ・アップ回数)は、加齢とともに急速に低下する。
視認性
水晶体の弾力性や光の透過率の低下により、視力や暗い場所での視認性が低下する。明るさが急変して暗くなる場所では、目が暗さに順応するまでに時間を要し、薄暗い場所での段差の視認性が落ちる。

こうした変化を反映して、高齢者の労働災害の発生原因として「体のバランスが思うようにとれなかった」「気持ちが先走り体がついて行かなかった」「手足腰が弱っていた」といった回答が多くなっている、と厚生労働省は述べています。注目したいのは2番目です。「気持ちが先走り体がついて行かなかった」は、危険に気づいて避けようとした判断と、それに応じる身体の動きのあいだにずれが生じたことを示しています。転倒は筋力やバランスの問題であると同時に、気づきと判断と反応の速さの問題でもあります。

統計に表れる年齢と性別の差

統計にも、この「人の側」の差がはっきり表れています。令和5年の転倒災害の死傷年千人率は、男性では25〜29歳の0.214から70〜74歳の1.179へ約5.5倍に、女性では25〜29歳の0.142から70〜74歳の2.887へ約20倍に上がります。女性は50代から急に高くなり、60代では男性の2倍を超えます。厚生労働省はこの差の背景に、加齢による骨密度の低下が顕著な中高年齢の女性で「転倒による骨折等」の発生率が極めて高いことを挙げ、令和6年の分析では女性の60歳以上は20代の約19.5倍としています。

令和5年の転倒災害の死傷年千人率を、男女別・年齢階層別に並べた棒グラフ。男女とも25〜29歳を底に年齢とともに上がり、女性は50〜54歳の0.802、55〜59歳の1.397、60〜64歳の2.031、65〜69歳の2.643、70〜74歳の2.887と急に高くなる。男性は同じ年齢で0.514、0.632、0.832、0.982、1.179と、女性の半分以下にとどまる。
転倒の発生率は年齢と性別で大きく異なる。ただし、これは集団の平均であって、個人の状態ではない。

ただし、年齢と性別は「誰に起きやすいか」を示す目安であって、「なぜその人が転んだか」は説明しません。同じ65歳の女性でも、平衡性・敏捷性・視認性の状態には大きな幅があります。指針が事業者に求めているのは、年齢で一律に扱うことではなく、個々の労働者の特性を把握し、それに応じた対応をとることです。

どこで、どのように、誰に起きているのかが分かれば、打つべき手の順序が決まります。設備、作業方法、靴、見える化という具体的な対策と、多くの事業場で手つかずになっている「人の側」の対策については、続く記事で扱います。

  • 本記事は2026年9月時点で厚生労働省が公表している統計・計画・指針にもとづいています。転倒災害の男女別・年齢別の死傷年千人率は令和5年の分析、事故の型別の度数率は令和6年の分析を用いています。
  • 死傷者数は労働者死傷病報告にもとづく休業4日以上の死傷者数で、新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除いています。
  • 測定は身体や認知の状態を数値として把握するためのものであり、転倒の予防や機能の改善を保証するものではありません。健康状態の診断や医学的な判断は産業医等の専門職が行います。

よくある質問

転倒災害はどのようなパターンで起きているのですか。
厚生労働省は典型的なパターンを「滑り」「つまずき」「踏み外し」の3つに整理しています。滑りは床の素材や凍結、水・油の飛散、床に落ちたビニールや紙が原因で、つまずきは床の凹凸や段差、放置された荷物が原因です。踏み外しは、大きな荷物を抱えるなど足元が見えない状態での作業で起きます。原因が異なるため対策も異なり、自社の転倒をこの3つに分けて数えることが対策の出発点になります。
転倒は本当に「重い」災害なのですか。
令和5年の転倒による平均休業見込日数は48.5日で、前年より1日延びています。第14次労働災害防止計画は、これを2027年までに40日以下にする目標を掲げています。高年齢の労働者では、わずかなつまずきでも被災の重篤度が高まる傾向があると厚生労働省は説明しており、特に中高年齢の女性では骨折を伴う転倒の発生率が極めて高くなっています。
冬になると転倒が増えるのはなぜですか。
厚生労働省は、冬季には積雪や路面の凍結により転倒災害が増加する傾向があるとしています。滑りのパターンは床の状態に左右されるため、屋外通路や出入口の状態が変わる時期にリスクが上がります。対策として、天気予報への注意、時間に余裕を持った行動、駐車場の除雪・融雪、危険マップの共有の4点が挙げられています。また、忙しい時間帯には4S活動がおろそかになり、作業を急ぐことで注意力が散漫になるため、季節だけでなく時間帯の偏りも確認しておく必要があります。
転倒しやすさは、年齢で判断してよいのですか。
統計上、転倒の死傷年千人率は年齢とともに上がり、女性の60〜64歳は25〜29歳の約14倍です。ただし、これは集団の平均であり、同じ年齢でも平衡性・敏捷性・視認性の状態には大きな幅があります。指針は年齢で一律に扱うのではなく、個々の労働者の健康や体力の状況を把握し、それに応じた就業上の措置や業務のマッチングを行うよう求めています。年齢は対象を絞る目安、個人の状態は測定で把握する、という使い分けになります。

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