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「認知運動」で調べると、リハビリテーションの治療体系と、高齢者の体操と、測定の話が同じ言葉で並びます。まず、どれが何を指しているのかを分けるところから始めます。

測定とデータ

「認知運動」という言葉には、確立した一つの定義がありません。リハビリテーションの治療体系を指して使われることもあれば、認知症予防の体操を説明するときに使われることもあり、当社のように「考えることと動くことを同時に扱う」という意味で使うこともあります。検索して最初に行き当たるのは、この重なりです。

この記事では、まず当社がこの語をどう使っているかをはっきりさせ、次に混同しやすい言葉との違いを整理します。そのうえで、運動と認知課題を同時に行う設計がなぜ使われるのか、研究で何が報告され、何がまだ確認されていないのかを見ていきます。

この記事で「認知運動」をどう使うか

当社は「考える(認知)と動く(運動)を同時に扱うこと」を指して認知運動と呼んでいます。これは当社の用法であり、学術用語として確立したものではありません。論文や教科書で定義された語ではないため、他の資料で同じ語を見かけたときは、別の意味で使われている可能性があります。この記事の以降の記述も、断りのない限りこの用法に従います。

「同時に扱う」とは、身体を動かす課題に、判断や記憶を要する課題を重ねることです。歩きながら計算する、合図の色を見てから踏み出す足を決める、順番を覚えながらステップを踏む、といった形が当てはまります。重要なのは、身体の負荷と、注意や判断の負荷が同時にかかっている点です。どちらか一方だけなら、それは通常の運動か、机に向かう課題のどちらかになります。

なぜこの区別を立てるのかというと、職場や介護の現場で実際に起きる事故が、たいてい「同時」の状況で起きているからです。台車を押しながら角を曲がる、荷物を抱えて段差をまたぐ、話しかけられながら階段を下りる。こうした場面では、身体を動かす能力と、危険に気づいて避け方を決める能力が同時に要求されます。認知機能を机の上の検査だけで測ると、この同時性が落ちてしまいます。

混同しやすい3つの言葉を分ける

「認知」と「運動」を組み合わせた言葉は複数あり、それぞれ出どころも目的も違います。代表的な3つを並べます。

言葉出どころ何を指すか
認知運動療法(認知神経リハビリテーション)イタリアのカルロ・ペルフェッティが提唱。国内では2000年に日本認知運動療法研究会として発足し、2010年に認知神経リハビリテーション学会へ改称脳卒中などの患者を対象に、認知過程への働きかけを通じて運動機能の回復を図る治療体系。医療専門職が行うリハビリテーションの方法論
コグニサイズ国立長寿医療研究センターが開発した造語(cognition と exercise の合成)。商標があり、名称利用には利用登録が必要運動と認知課題を組み合わせた、認知症予防を目的とした取り組みの総称。コグニステップ、コグニウォーキングなどを含む
認知運動(この記事での用法)当社の呼び名。学術用語ではない考えることと動くことを同時に扱うという、測定や課題の設計の考え方

いちばん紛らわしいのは認知運動療法です。語の見た目が近いうえに、こちらは確立した治療体系で、学会も講習会も存在します。当社の用法とは対象者も目的も異なるため、同じものとして扱わないでください。医療機関で受けるリハビリテーションの話をしているのか、予防や測定の話をしているのかで、読むべき資料が変わります。

なぜ「同時」なのか——間違える程度の負荷という設計

運動と認知課題を同時に行う設計について、国立長寿医療研究センターはコグニサイズの要点を2つ挙げています。ひとつは、運動が全身を使った中強度程度の負荷(軽く息がはずむ程度)で、脈拍数が上昇すること。もうひとつが、設計の考え方をよく表しています。

運動と同時に実施する認知課題によって、運動の方法や認知課題自体をたまに間違えてしまう程度の負荷がかかっている
— 国立長寿医療研究センター「認知症予防運動プログラム「コグニサイズ」」

同センターは、課題がうまくできることが目的ではないとも述べ、課題に慣れたら内容を工夫するよう勧めています。つまり、正解率を上げることではなく、間違いが時々起きる水準に負荷を保つことが設計の狙いです。

この基準が示しているのは、負荷の置きどころが筋肉ではなく、注意の配分にあるということです。歩くこと自体は難しくありません。計算だけでも難しくありません。難しいのは、歩き方を保ったまま計算に注意を割くことです。慣れて間違えなくなったら、それは負荷が抜けた状態なので、課題を変える必要がある——この考え方が、運動の強度を上げるだけの設計とは別のものにしています。

こうした、2つの課題を同時に行わせる枠組みはデュアルタスクと呼ばれ、評価にも用いられています。

研究が示していること、まだ示していないこと

運動と認知課題を組み合わせた取り組みについては、国内で実施された無作為化比較試験があります。国立長寿医療研究センターの研究グループが2013年に報告したもので、愛知県大府市の軽度認知障害(MCI)の高齢者100名(平均75.4歳、65〜95歳)を、運動を行う群と健康教育を受ける対照群に半数ずつ無作為に割り付けています。

期間と頻度
6か月間、週2回、1回90分(計40回)。平均参加率は85.9%
運動の内容
準備運動とストレッチ10分、筋力訓練20分、有酸素運動・バランス訓練・二重課題訓練を合わせて60分。運動強度は最大心拍数の約60%
二重課題の例
歩きながら詩を考えるなど、運動中に認知課題を同時に行う形式
対照群
6か月間に2回の健康教育の講座(食事、口腔ケアなど。運動や認知機能の情報は含まない)

結果を正確に読む必要があります。MCIの参加者全体では、認知検査でも脳の萎縮の指標でも、群と時間の交互作用は認められませんでした。差が報告されたのは、記憶の低下が目立つ健忘型MCIに絞ったサブグループの解析です。この群では、MMSEと論理的記憶の即時再生、全脳皮質の萎縮の3つで交互作用が認められています。一方、論理的記憶の遅延再生や、内側側頭葉・嗅内皮質の萎縮では、交互作用は認められていません。

著者自身も限界を挙げています。サンプルサイズが小さく追試が必要であること、135名中35名が除外されたことによる選択バイアス、運動群が受けた社会的交流の影響を排除できないこと、効果量が小さく多重比較の補正を行うと有意性が消える可能性があること。そして、この研究の設計からは二重課題訓練そのものの効果を取り出せないことです。運動プログラムの一部として二重課題が含まれていたため、どの要素が結果に効いたのかは分離できません。

まとめると、運動と認知課題を組み合わせた取り組みについては報告が蓄積されつつありますが、「認知運動を行えば認知機能が改善する」と言える段階ではありません。資料を読むときは、対象者が誰で、何と比べて、どの指標に差があったのかを確認してください。

測ることと、鍛えることは分けて考える

当社が主題にしているのは、鍛えることではなく測ることです。同時に扱うという設計は、トレーニングだけでなく測定にも使えます。むしろ測定のほうが、設計の意図をそのまま活かせます。

理由は、現場で問題になる場面が同時の状況だからです。段差に気づいて足を出し直す、合図を見て手を止める、呼ばれて振り向きながら歩き続ける。こうした場面で必要なのは、筋力の最大値でも、机の上での計算の速さでもなく、両方に注意を配りながら身体を制御することです。片方ずつ測った結果を足し合わせても、この状態は表せません。

測定として扱う場合に必要なのは、同じ条件で繰り返せること、結果が数値として残ること、そして測った結果を何に使うかが決まっていることです。トレーニングであれば「間違える程度」に負荷を保つことが狙いですが、測定では条件を固定しなければ前回との比較ができません。同じ「同時に扱う」でも、目的によって設計は変わります。

  • ※ 本記事は2026年10月時点で公開されている資料にもとづいています。
  • ※ 「認知運動」は当社が使う呼び名で、学術用語として確立したものではありません。認知運動療法(認知神経リハビリテーション)とは別のものです。
  • ※ 「コグニサイズ」は国立長寿医療研究センターの商標です。名称の利用やコンテンツの使用には、同センターへの利用登録が必要とされています。本記事は同センターの公開資料を出典を示して引用しており、プログラムの提供や指導者養成を行うものではありません。
  • ※ 紹介した研究は軽度認知障害の高齢者を対象としたもので、結果がそのまま他の年代や状態の人に当てはまるとは限りません。測定は状態を数値として把握するためのものであり、疾病の予防や機能の改善を保証するものではありません。健康状態の診断や医学的な判断は医師が行います。

よくある質問

認知運動と認知運動療法は同じものですか。
別のものです。認知運動療法はイタリアのカルロ・ペルフェッティが提唱した治療体系で、脳卒中などの患者を対象に、認知過程への働きかけを通じて運動機能の回復を図るものです。国内では2000年に日本認知運動療法研究会として発足した学会があり、現在は認知神経リハビリテーション学会という名称です。一方、この記事で使う「認知運動」は当社の呼び名で、考えることと動くことを同時に扱うという設計の考え方を指します。対象者も目的も異なります。
コグニサイズとは何が違うのですか。
コグニサイズは国立長寿医療研究センターが開発した造語で、運動と認知課題を組み合わせた認知症予防の取り組みの総称です。商標があり、名称の利用には同センターへの利用登録が必要とされています。当社の「認知運動」は特定のプログラムの名称ではなく、課題や測定を設計するときの考え方を指す言い方です。
運動と認知課題を同時に行うと、認知機能は改善しますか。
改善すると断定できる段階ではありません。国立長寿医療研究センターの研究グループが報告した無作為化比較試験では、軽度認知障害の高齢者100名を対象に6か月の運動プログラムを行い、記憶の低下が目立つ健忘型のサブグループでMMSEなど一部の指標に差が報告されています。ただし参加者全体では差が認められず、著者自身もサンプルサイズの小ささや効果量の小ささを限界として挙げています。またこの研究では二重課題はプログラムの一部であり、同時に行うこと自体の効果は分離されていません。
負荷はどのくらいに設定すればよいのですか。
国立長寿医療研究センターはコグニサイズの要点として、運動は全身を使った中強度程度(軽く息がはずむ程度)で脈拍数が上昇すること、認知課題は運動の方法や課題自体をたまに間違えてしまう程度の負荷がかかっていることを挙げています。課題がうまくできることが目的ではなく、慣れたら内容を工夫するよう勧められています。ただしこれはトレーニングの基準です。測定として行う場合は、前回と比較するために条件を固定する必要があります。
職場で取り入れる場合、何から考えればよいですか。
まず、自社のどの場面が「同時」の状況なのかを洗い出すところからです。台車を押しながら角を曲がる、荷物を抱えて段差をまたぐ、呼ばれて振り向きながら歩く。実際に起きた災害やヒヤリハットを見ると、同時性が関わっている場面が見つかります。そのうえで、鍛えることが目的なのか、状態を把握することが目的なのかを決めます。目的によって、負荷の置き方も、条件を固定するかどうかも変わります。

出典

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