片脚で、どれくらい立っていられるか。道具はほとんど要らず、数十秒で測れるため、職場の体力チェックでも、介護予防の場でも、よく使われるテストです。厚生労働省が2026年2月の通達(令和8年2月10日付け基発0210第1号)で示した体力チェックの方法「転倒等リスク評価セルフチェック票」(別添3)にも、閉眼と開眼の2種類の片足立ちが入っています。
ところが「片脚立ちが○秒未満だと問題」という数字を、どこで見たのか思い出せない人は多いはずです。実は片脚立ちには、由来の異なる3つの顔があります。ロコモ度の判定には使わない。診断基準の一要素としての「15秒」がある。職場の体力チェックでは5段階で評価する。この3つを混ぜたまま数字を読むと、結果の意味を取り違えます。
この記事では、日本整形外科学会と厚生労働省の公開資料をもとに、片脚立ちテストがどのような位置づけで使われているか、測定でどこに気をつけるか、結果をどう読むか、そして何が分からないかを整理します。
片脚立ちの3つの顔——ロコモ度、診断基準、職場の体力チェック
最初に、片脚立ちがどの文脈に出てくるのかを分けておきます。
1つめはロコモ度テストとの関係です。日本整形外科学会が運営する「ロコモ ONLINE」によると、ロコモ度テストは立ち上がりテスト、2ステップテスト、ロコモ25の3つで構成され、各テストのどれか一つでも該当すればロコモと判定されます。片脚立ちはこの3つに含まれていません。同じサイトで片脚立ちが登場するのは、運動の方法を紹介する「ロコトレ」の項で、バランス能力をつける運動として、左右とも1分間を1セット、1日3セットが示され、支えが必要な人は机に手や指をついて行うとされています。つまり学会の枠組みでは、片脚立ちは「判定の物差し」ではなく「運動の種目」として登場します。
2つめは運動器不安定症の診断基準です。日本整形外科学会のサイトは、診断基準として、運動機能の低下をきたす11の運動器疾患または状態の既往があるか罹患している人で、日常生活自立度がランクJまたはAに相当し、かつ開眼片脚起立が15秒未満、または3m Timed up-and-go(TUG)テストが11秒以上であることを示しています。ここに「15秒」という数字が出てきます。
3つめが、職場の体力チェックです。通達の別添3は、閉眼片足立ちと開眼片足立ちを、それぞれ5段階で評価します。通達は体力チェックの範囲を「歩行能力等の筋力、バランス能力、敏捷性等の労働災害に直接的に関与するもの」とし、片脚立ちはこのうちバランス能力(静的バランス)を見る項目に置かれています。
| 文脈 | 片脚立ちの位置づけ | 示されている数字 |
|---|---|---|
| ロコモ度テスト(日本整形外科学会) | 構成するテストではない | — |
| ロコトレ(同) | バランス能力をつける運動 | 左右とも1分間を1セット、1日3セット |
| 運動器不安定症の診断基準(同) | 診断基準の運動機能の要素の一つ | 開眼片脚起立15秒未満(ほかの条件との組合せ) |
| 体力チェック(通達 別添3) | 静的バランスの測定項目 | 閉眼・開眼それぞれ5段階の評価表 |
測定方法——手順と、結果を左右する注意点
通達の別添3は評価表を示していますが、測定の手順そのものは、私たちが確認した範囲の本文には記載がありません。ここでは、開眼片足立ちの手順を具体的に示している厚生労働省の「体力測定マニュアル」(介護予防事業の検討資料)を参照します。このマニュアルは介護予防の対象者向けの資料であり、職場の体力チェック向けではない点に留意してください。
- 両手は体の側方に軽くおろし、片足を床から離す。支持脚が右か左かを記録しておく。
- 次のいずれかが起きるまでの時間を測る。支持脚の位置がずれたとき、支持脚以外の体の一部が床に触れたとき。
- 支持脚の位置がずれたときには、直ちに測定を終了する。
- 測定者は対象者の傍らに立ち、安全を確保する。
- 測定時間は60秒以内とし、2回測定する。
- 教示は「目を開けたまま、この状態をできるだけ長く保ってください」に統一する。
手順の中で重要なのは、支持脚がずれたら直ちに終了する点です。マニュアルは、過剰な負荷となって大腿骨頸部の骨折を引き起こさないための配慮だと説明しています。片脚立ちは「できるだけ長く」を求めるテストなので、限界まで粘らせるほど転倒の危険が増します。記録を伸ばすことより、安全に終えることを優先する設計になっています。
最後の点は、指針が明示的に求めているところです。体力の状況の把握に当たっては、個々の労働者に対する不利益な取扱いを防ぐため、本人の同意の取得方法や情報の共有範囲を、安全衛生委員会等で事前に定めておく必要があります。
読み方その1——職場の体力チェックは5段階の評価表
通達の別添3は、実測値を次の5段階に当てはめます。数字が大きいほど評価が高く、通達は、評価が小さい項目、特に2以下の数値がある場合は、その項目での転倒などのリスクが高く注意が必要だと説明しています。
| 評価 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
|---|---|---|---|---|---|
| 閉眼片足立ち(秒) | 〜7 | 7.1〜17 | 17.1〜55 | 55.1〜90 | 90.1〜 |
| 開眼片足立ち(秒) | 〜15 | 15.1〜30 | 30.1〜84 | 84.1〜120 | 120.1〜 |
この票の特徴は、実測だけでなく質問票も同じ5段階で用意していることです。質問7は「眼を閉じて片足でどのくらい立つ自信がありますか」、質問9は「眼を開けて片足でどのくらい立つ自信がありますか」で、選択肢は閉眼が10秒以内から「それ以上」まで、開眼が15秒以内から2分以上までの5つです。実測の評価と自覚の評価をレーダーチャートに重ね、実測のほうが自覚より低い場合は、身体機能が自分で考えている以上に衰えている状態で、とっさの行動のときに身体が思いどおりに反応しない場合があると、通達は説明しています。

読み方その2——「15秒」は診断基準の一要素で、職場の合否ラインではない
もう一つの物差しが、運動器不安定症の診断基準にある「開眼片脚起立15秒未満」です。ここは取り違えやすいところなので、条件を丁寧に確認します。
日本整形外科学会のサイトが示す診断基準は、まず11の運動器疾患または状態(脊椎圧迫骨折、下肢の骨折、骨粗鬆症、変形性関節症、腰部脊柱管狭窄症など)の既往があるか罹患していること、そのうえで日常生活自立度がランクJまたはAに相当し、運動機能が開眼片脚起立15秒未満、または3m TUGテスト11秒以上であること、という構造です。15秒未満は、疾患や状態、自立度とあわせて満たす条件のうちの一つであり、片脚立ちの秒数だけで運動器不安定症かどうかが決まるわけではありません。
通達の別添3でも、開眼片足立ちの1段階目は「〜15秒」です。数字は重なっていますが、由来も目的も異なる物差しです。前者は医療の診断基準の一部、後者は職場で本人が自分の状態に気づくための評価表です。職場の体力チェックで15秒以下だった人に「運動器不安定症の疑い」と伝えるのは、診断基準の使い方として正しくありません。結果の説明では、どちらの基準に照らした話なのかを必ず分けます。
通達は、体力チェックの評価基準を設ける場合には、高年齢者が従事する職務の内容等に照らして合理的な水準に設定すること、評価に当たっては仕事内容に対して必要な能力があるかという観点にも留意することを求めています。評価基準を設けない場合は、体力チェックを高年齢者の気づきにつなげ、業務に従事する上で考慮すべきことを検討する際に活用することが考えられるとされています。片脚立ちの秒数を、そのまま配置や就業の可否の線引きに使うことは、通達の趣旨から外れます。
分かること、分からないこと
片脚立ちで分かるのは、静かに立った状態でバランスを保つ力の現在値です。別添3でも「静的バランス」と名づけられています。道具が要らず短時間で終わるので、繰り返し測って変化を追いやすい点は、職場の体力チェックに向いています。実測と自覚を同じ票で比べられるため、本人の気づきを促す材料にもなります。
一方、分からないことがあります。転倒は、歩いている最中に床の濡れや段差に出会い、とっさに足を出して立て直そうとする場面で起きます。静止して片脚で立つ時間は、その動作の一部しか映しません。別添3は動的バランス(ファンクショナルリーチ)や敏捷性(座位ステッピングテスト)を別の項目として置いており、片脚立ち一つで転倒のしやすさを判断する設計にはなっていません。
さらに、指針が考慮すべき特性として挙げる筋力、バランス能力、敏捷性、全身持久力、感覚機能及び認知機能の低下等のうち、片脚立ちが対象とするのはバランス能力だけです。別添3の5項目を揃えても、感覚機能と認知機能に対応する項目はありません。通達は、体力チェックの範囲に事業場の実情に応じて感覚機能や認知機能等を含めて差し支えないとしています。危険に気づき、避け方を判断する側の状態は、別の測定で補う必要があります。
したがって、片脚立ちは職場の体力チェックの項目として有用ですが、その結果だけで転倒のリスクを把握したことにはなりません。測定の目的と、結果の使い方を決めたうえで、ほかの項目と組み合わせて読むことが前提になります。
- ※ 本記事は2026年10月時点の公開情報にもとづいています。運動器不安定症の診断基準は日本整形外科学会のサイト、5段階の評価表は「高年齢者の労働災害防止のための指針」について(令和8年2月10日付け基発0210第1号)の別添3、測定手順は厚生労働省の体力測定マニュアルによります。
- ※ 厚生労働省の体力測定マニュアルは介護予防事業の検討資料であり、職場の体力チェックを対象としたものではありません。事業場で実施する場合は、対象者の状況に応じて高負荷にならないよう安全に十分配慮する必要があります。
- ※ 運動器不安定症の判定は医療の領域です。事業場で行う体力チェックは診断ではありません。痛みを伴う場合や医学的な判断が必要な場合は、産業医等の専門職や整形外科専門医にご相談ください。
- ※ 測定は身体や認知の状態を数値として把握するためのものであり、転倒の予防や身体機能の改善を保証するものではありません。
よくある質問
- 片脚立ちは何秒できれば問題ないですか。
- 単一の合格ラインはありません。職場の体力チェックでは、通達の別添3が閉眼・開眼それぞれ5段階の評価表を示しており、開眼は15秒以下が1段階目、120.1秒以上が5段階目です。評価基準を設ける場合は、従事する職務の内容等に照らして合理的な水準に設定し、仕事内容に対して必要な能力があるかという観点にも留意するよう通達は求めています。
- 開眼片脚立ちが15秒未満だと、運動器不安定症ですか。
- それだけでは決まりません。日本整形外科学会の診断基準は、運動機能の低下をきたす11の運動器疾患または状態の既往があるか罹患している人で、日常生活自立度がランクJまたはAに相当し、かつ開眼片脚起立15秒未満、または3m TUGテスト11秒以上であることを示しています。15秒未満は、その中の運動機能の要素の一つです。
- ロコモ度テストに片脚立ちは含まれますか。
- 含まれません。ロコモ度テストは立ち上がりテスト、2ステップテスト、ロコモ25の3つで構成されます。片脚立ちは、同じ学会のサイトでは「ロコトレ」というバランス能力をつける運動として紹介されており、左右とも1分間を1セットとして1日3セット、支えが必要な人は机に手や指をついて行うとされています。
- 職場で片脚立ちを測るとき、何に注意すればよいですか。
- 厚生労働省の体力測定マニュアルは、支持脚の位置がずれたとき、または支持脚以外の体の一部が床に触れたときに直ちに測定を終了すること、測定者が傍らに立って安全を確保すること、測定は60秒以内で2回行うことを示しています。これは介護予防向けの資料なので、職場で行うときは対象者の状況に応じて高負荷にならないよう配慮し、上限時間と回数、結果の共有範囲を事前に決めておきます。
- 閉眼と開眼のどちらを測ればよいですか。
- 通達の別添3は両方を評価項目に置いています。ただし目を閉じると転倒の危険が大きくなるため、実施するかどうか、どのように安全を確保するかは、対象者の状況と事業場の目的に応じて、産業医等と相談して決めることになります。開眼だけを実施する場合でも、評価表の開眼の区分にそのまま当てはめられます。
出典
- ロコモ度判定方法|ロコモ ONLINE(公益社団法人日本整形外科学会 ロコモ チャレンジ!推進協議会)(外部サイトが新しいタブで開きます)
- ロコトレ|ロコモ ONLINE(公益社団法人日本整形外科学会 ロコモ チャレンジ!推進協議会)(外部サイトが新しいタブで開きます)
- 運動器不安定症(MADS)|ロコモ チャレンジ!(公益社団法人日本整形外科学会)(外部サイトが新しいタブで開きます)
- 「高年齢者の労働災害防止のための指針」について(令和8年2月10日付け基発0210第1号・別添3 転倒等リスク評価セルフチェック票)[PDF]|厚生労働省(外部サイトが新しいタブで開きます)
- 高年齢者の労働災害防止のための指針(令和8年2月10日 公示第1号)[PDF]|厚生労働省(外部サイトが新しいタブで開きます)
- 資料3-5 体力測定マニュアル[PDF]|厚生労働省(外部サイトが新しいタブで開きます)
- 高年齢労働者の安全衛生対策について|厚生労働省(外部サイトが新しいタブで開きます)
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