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SportsTech

ストップウォッチも、光のセンサーも、ゼッケンのチップも、同じ「タイムを測る道具」です。ただし、測っている瞬間も、誤差の出どころも、公式記録としての扱いも違います。4つの方式を比べて整理します。

スポーツテック・システム開発

タイム計測の方式を選ぶ場面は、大きく二つあります。一つは、選手の変化を追うために練習で短い距離を測る場面。もう一つは、大会で多くの参加者の記録を残す場面です。前者では小さな差を見分けられるかが問われ、後者では全員の記録を漏らさず、規則に沿って確定できるかが問われます。

この記事では、代表的な4つの方式について、何をきっかけに時間を取るのか、誤差はどこから生まれるのかを整理します。公式記録の条件は、国内の陸上競技で基準となる日本陸上競技連盟の競技規則(2026年版として公開されているもの)で確認しました。他の競技には、それぞれの競技団体の規則があります。スポーツテック全体の中での位置づけは、スポーツテックの4つの領域で解説しています。

タイム計測を4つの方式に分けて考える

製品の名前や呼び方はさまざまですが、「何を検出して時間を取るのか」で分けると、次の4つに整理できます。この記事では言葉を次のように使います。

手動計時
人がスタートの合図とフィニッシュを見て、ストップウォッチのボタンを押す方式です。
光電管
光の線を人が横切ったことをセンサーで検出する方式です。練習や測定会で、スタートや途中の地点、フィニッシュに置いて使われます。
写真判定(全自動計時)
スタートの合図で自動的に作動し、フィニッシュラインを撮影した画像と時間の目盛りから、順位と時間を読み取る方式です。競技規則では電気計時とも呼ばれます。
チップ計測(RFIDなど)
参加者が身に着けた小さな装置を、地点ごとの機器で読み取る方式です。競技規則ではトランスポンダーと呼ばれています。RFIDは、電波を使って装置の情報を読み取る技術の総称です。
方式時間を取るきっかけ主な誤差の出どころ向く場面
手動計時人がボタンを押す計時する人の反応と判断機材のない場面、機器の予備
光電管光の線が遮られる腕や脚の先行による誤検出、スタートの手順練習や測定会での短い距離の測定
写真判定合図で作動し、画像から読み取る機器の設置と作動の確認、判定作業競技場のトラック競技、着順の判定
チップ計測装置が読み取り地点を通過する読み取りの漏れ、装着の不備、僅差の判別道路競走など参加者の多い大会

「向く場面」は、規則と研究の内容をもとに当社が整理した目安です。製品ごとの性能は異なるため、導入のときは仕様を確かめる必要があります。

手動計時:手軽だが、一回ごとの誤差が大きい

手動計時は機材の負担が少なく、今も公式の計時方法の一つです。ただし競技規則は、人の判断に頼る方式であることを前提に、手順を細かく定めています。各レースの1着の時間は3名の計時員が独立して計り、3個の時計の値から公式の記録を決めます。トラックレースでは、ちょうど0.1秒で終わる場合を除いて次の長い0.1秒に切り上げます(例:10.11が10.2)。

誤差の主な原因は、人の反応です。計時する人は、スタートの閃光や煙を見てからボタンを押します。見てから動くまでには時間がかかり、その長さには個人差があります(反応時間の種類を参照)。スプリントの測定方法をまとめたハウゲンらのレビュー(2016年)は、同じ試技で計時する人どうしの差が0.19±0.14秒だったとする研究を紹介しています。

同じレビューは、集団の平均で比べると手動と電気計時の差は0.04〜0.05秒と小さい場合があるとも紹介しています。つまり、集団全体の傾向を見る用途と、一人の選手の変化を見る用途とでは、手動計時の使いやすさが違います。一回ごとの誤差が大きいため、レビューは電気的な計時を勧めています。

光電管:一本の光か、二本の光か

光電管は、人が光の線を横切った瞬間を機械が検出するので、ゴール側で人の反応が入りません。一方で、体のどの部分が光を遮るかは走り方によって変わります。計測したいのは胴体の通過でも、振った腕や前に出た脚が先に光を遮ると、早すぎる時間が記録されることがあります。

この問題を調べたのが、アープとニュートンの研究(2012年)です。10名が10mのスプリントを10本ずつ行い、3種類の機器を比べました。誤った信号の数は、光電管が一つの機器で14回、二つの機器で7回、信号処理を備えた機器で0回でした。機器の間の平均の差は9〜17ミリ秒でしたが、標準偏差は誤検出のために12〜42ミリ秒まで広がりました。対象は10名と少数で、10mという短い距離に限った結果です。距離が延びて、期待される変化も大きくなるほど、単一の光電管でも影響を受ける割合は小さくなると著者らは述べています。

もう一つ見落としやすいのがスタートです。ハウゲンらのレビューは、スタートの方法と計測を始めるきっかけの組み合わせによって、長年のトレーニングで生じる変化の何倍もの時間差が生じることがあると指摘しています。光電管の性能が高くても、前回と今回でスタートの構えや光の線までの距離が違えば、数字は比べられません。測定値をどう読むかは、測定の信頼性と妥当性で整理しています。

なお、競技規則が公式の計時方法として挙げる3つの中に、光電管は含まれていません。光電管は、練習やチーム内の測定で変化を追うための道具と考えるのが実際的です。

写真判定:トラック競技の公式計時を支える仕組み

写真判定は、フィニッシュラインの延長線上に置いたカメラの画像を、時間の目盛りと合わせて読み取る方式です。競技規則は機器の条件を具体的に定めています。主な点は次のとおりです。

  • 競技会の前4年以内に精度検査を受け、精度証明書があること
  • 合成画像は1秒あたり100フレーム以上で撮影すること(世界陸連やエリア陸連が開催または認可する競技会では1,000フレーム以上)
  • 画像は0.01秒ごとの時間目盛りと同期していること
  • スタートの合図で自動的に作動し、合図と計時装置の時間差が安定して0.001秒以内であること

記録の起点が自動かどうかは、特に重要です。規則では、スタート時に自動で作動せず、フィニッシュ時だけ自動で作動するシステムは、条件を満たせば手動計時とみなされます。スタート時に自動で作動してもフィニッシュ時に自動で作動しないシステムは、公式の記録計測に使えません。「電気で測っている」というだけでは、全自動計時にならないということです。

記録は、1万mまでのトラックレースでは次の長い0.01秒に切り上げます(例:26:17.533が26:17.54)。時間を取る基準は、手動計時と同じく胴体です。頭、首、腕、脚、手、足を含まない胴体が、フィニッシュラインのスタート側の端の垂直面に到達した瞬間で決まります。日本陸連が主催・共催する競技会などでは、競技場内のレースに写真判定システムの使用が求められます。導入と運用には機材と専門の担当者が必要なので、練習の測定よりも大会向けの方式といえます。

チップ計測(RFID):多人数の記録を残す仕組みと注意点

数千人が走る大会で、全員の時間を人の目で取るのは現実的ではありません。そこで使われるのがチップ計測です。マラソンでは、RFIDタグを着けた走者が指定の地点を通過する時間を測り、その情報が途中経過や予想完走時刻に使われていることが、学術論文でも紹介されています。

日本自動認識システム協会の資料によると、RFIDには電源を持たないパッシブ型と、交信用の電源を持つアクティブ型などがあります。交信距離はパッシブ型で数ミリメートルから数メートル、アクティブ型で数メートルから数十メートルが目安です。複数のタグを一括で読み取れますが、交信領域にある意図しないタグまで読み取ることもあります。同じ資料は、電波方式のRFIDは水分の影響を受けて性能が低下し、人体の陰になるタグは電波が届きにくいと注意を促しています。人が身に着けて使う以上、タグの種類、着ける位置、読み取り機器の置き方によって結果が変わりうることを、大会ごとに確かめておく必要があります。

競技規則では、トランスポンダーの使用は競技場の外で行う競歩、道路競走、クロスカントリー、マウンテンレース・トレイルレースに限られます。さらに、機器が競技の妨げにならないこと、装置が負担にならない重さであること、スタートの合図と同期していること、競技者が何も操作しなくてよいことが条件です。

  • 記録の端数:0.1秒単位が厳密に「.0」でなければ、次の長い1秒に切り上げます(例:2:09:44.3が2:09:45)。
  • 公式の時間:スタートの合図からフィニッシュまでのグロスタイムです。スタートラインを通過してからのネットタイムは、参加者に知らせることはできますが、公認記録にはなりません。
  • ウェーブスタート(時差スタート):ウェーブごとにグロスタイムとネットタイムの両方を測ることとされています。
  • 僅差の順位:競技規則の解説は、チップでは差を判別できない可能性があるとして、計時員や写真判定員によるバックアップの手配を強く勧めています。

チップ計測は、大会の運営全体と結びつく方式でもあります。ゼッケン番号とチップ、参加者の情報が正しく結びついていなければ、読み取りに成功しても記録は確定できません。読み取り漏れが起きたときの補完の手順まで、あらかじめ決めておくことが大切です。

目的から選ぶ:4つの問いで整理する

方式を決めるときは、機器の精度を比べる前に、次の4つを順に確かめると整理しやすくなります。

  1. 記録を何に使うのか。公認記録が必要なら、まず適用される規則を確かめます。この時点で選択肢が絞られます。
  2. 見分けたい差はどのくらいか。短い距離で小さな変化を追うなら、方式の誤差がその差より小さくなければ意味がありません。
  3. 何人を、どこで測るのか。一人ずつ走る測定と、数千人が一斉に走る大会とでは、求められる機能が違います。
  4. 誰が運用し、失敗したらどうするのか。設置と確認の担当者、予備の計時、記録の修正手順まで含めて考えます。
場面候補となる方式確かめたいこと
部活動やチームの短距離の測定光電管(二重の光や信号処理を備えたもの)スタートの手順、光の線の位置と高さをそろえているか
機材がない場での目安の把握手動計時同じ人が計るか、一回ごとの誤差を踏まえて読んでいるか
競技場でのトラック競技会写真判定精度証明書、作動の確認、予備計時員の体制
マラソン、駅伝などの道路競走チップ計測グロスタイムとネットタイムの扱い、読み取り地点の設計、僅差の判定の備え

二つの方式を組み合わせることも選択肢です。規則は、写真判定がうまく作動しない可能性があるときは予備の計時員を置くことを定め、チップ計測でもバックアップを勧めています。大会の計測では、一つの方式が止まった場合の備えも、精度と同じように検討しておく必要があります。

  • ※ この記事の規則の内容は、日本陸上競技連盟が公開している競技規則(2026年版)にもとづきます。規則は改定されるため、大会で適用する際は最新版を確認してください。他の競技には、それぞれの競技団体の規則が適用されます。
  • ※ 研究の数値は、それぞれの対象者と条件のもとで得られたものであり、製品ごとの性能を示すものではありません。

よくある質問

光電管の記録は公式記録になりますか。
日本陸上競技連盟の競技規則が公式の計時方法として挙げるのは、手動計時、写真判定システムによる全自動計時、トランスポンダーシステムの3つで、光電管は含まれていません。光電管は、主に練習やチーム内の測定で変化を追うために使うものと考えるとよいでしょう。他の競技については、それぞれの競技団体の規則を確認してください。
手動計時と電気計時では、どのくらい差が出ますか。
一定の値では言えません。スプリントの測定に関するレビューは、同じ試技で計時する人どうしの差が0.19±0.14秒だった研究を紹介しています。一方で、集団の平均で比べると差が0.04〜0.05秒と小さい場合もあるとしています。短い距離で一人の選手の変化を追う用途には、手動計時は向きません。
グロスタイムとネットタイムは何が違いますか。
グロスタイムはスタートの合図からフィニッシュまでの時間、ネットタイムはスタートラインを通過してからフィニッシュまでの時間です。競技規則では、公式の時間はグロスタイムです。ネットタイムを参加者に知らせることはできますが、公認記録にはなりません。
RFIDのチップ計測なら、順位まで正確に決まりますか。
時間の記録には使えますが、僅差の順位まで判別できるとは限りません。競技規則の解説は、チップでは差を判別できない可能性があるとして、計時員や写真判定員によるバックアップを手配するよう強く勧めています。着順を厳密に決める必要がある大会では、カメラなどの併用が望まれます。

出典

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