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Occupational Safety

5つの措置の項目名は旧ガイドラインと同じです。だからこそ「中身は変わっていない」と読まれがちですが、条文を並べると差が見えてきます。

労働安全衛生

2026年4月1日、「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」(令和7年法律第33号)の主要部分が施行され、労働安全衛生法に第62条の2「高年齢者の労働災害防止のための措置」が加わりました。同じ日に、この条文にもとづく「高年齢者の労働災害防止のための指針」の適用が始まり、2020年から運用されてきた「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)は廃止されています。

新しい指針は旧ガイドラインを土台にしており、「事業者が講ずべき措置」の5項目の見出しは旧ガイドラインとほぼ同じです。そのため、実務では「名前が変わっただけ」と受け止められることがあります。しかし両者の本文を突き合わせると、法律上の位置づけが変わっただけでなく、考慮すべき特性の列挙や体力チェックの書き方に、見過ごせない差があります。

この記事では、改正法の全体像を短く確認したうえで、旧ガイドラインと新しい指針の本文を比較し、実務で見直すべき点を整理します。

改正法の全体像と、高年齢者に関わる部分

令和7年法律第33号は2025年5月14日に公布された法律で、厚生労働省の概要資料によれば、改正の柱は次の5つです。

  1. 個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
  2. 職場のメンタルヘルス対策の推進(ストレスチェックの実施を労働者数50人未満の事業場にも義務化。施行は公布後3年以内に政令で定める日)
  3. 化学物質による健康障害防止対策等の推進
  4. 機械等による労働災害の防止の促進等
  5. 高齢者の労働災害防止の推進

高年齢者に関わるのは5番目で、条文としては第62条の2が新設されました。内容は3項から成ります。

第1項
事業者は、高年齢者の労働災害の防止を図るため、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない
第2項
厚生労働大臣は、前項の事業者が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする
第3項
厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる

なお、改正前から第62条には「中高年齢者等についての配慮」として、心身の条件に応じた適正な配置に努める規定がありました。今回はこれに続く形で、作業環境の改善や作業の管理まで含めた措置が努力義務として明記され、その具体化を指針に委ねる構造になっています。

位置づけの違い——部長通達から、法律にもとづく大臣の公示へ

旧ガイドラインは、2020年3月16日付けの厚生労働省労働基準局安全衛生部長による通達(基安発0316第1号)の別添として策定されたものでした。趣旨の項にも、「労働安全衛生関係法令とあいまって」取組が求められる事項を示す、と書かれています。法律の条文に直接根拠を持つ文書ではなかったということです。

新しい指針は、労働安全衛生法第62条の2第2項にもとづいて厚生労働大臣が公表した公示(令和8年2月10日 高年齢者の労働災害防止のための指針公示第1号)です。第1項で事業者の努力義務が定められ、第2項でその具体化として指針が置かれ、第3項で指針に従った指導・援助の根拠が与えられています。

旧ガイドライン(2020年3月〜2026年3月)新しい指針(2026年4月〜)
根拠安全衛生部長通達(基安発0316第1号)の別添労働安全衛生法第62条の2第2項にもとづく厚生労働大臣の公示
事業者の位置づけ「事業者に求められる事項」第62条の2第1項の努力義務を具体化した「事業者が講ずべき措置」
行政の関与周知・指導の依頼第62条の2第3項にもとづく指導・援助
対象の呼び方高年齢労働者高年齢者(法律の条文に合わせた表現)
労働者に関する項第3「労働者に求められる事項」として具体的な取組を列挙第3「労働者と協力して取り組む事項」として簡潔化。具体例は通達に移動

努力義務であることは変わっておらず、罰則もありません。ただし、指針は「事業者が講ずべき措置」という表題になり、指針に沿った指導・援助の根拠が法律に置かれました。旧ガイドラインの時代よりも、取り組んでいない状態の説明が難しくなったと見るべきでしょう。

内容の違い(1)——考慮すべき特性に「感覚機能」と「認知機能」が加わった

本文の比較で最も大きな差は、「職場環境の改善」のうち「高年齢者の特性を考慮した作業管理」の冒頭にあります。旧ガイドラインと新しい指針で、考慮すべき特性の列挙が次のように変わりました。

敏捷性や持久性、筋力といった体力の低下等の高年齢労働者の特性を考慮して、作業内容等の見直しを検討し、実施すること。
高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(廃止) 第2の2(2)
筋力、バランス能力、敏捷性、全身持久力、感覚機能及び認知機能の低下等の高年齢者の特性を考慮して、作業内容等の見直しを検討し、実施すること。
高年齢者の労働災害防止のための指針 第2の2(2)
旧ガイドラインと新しい指針で列挙された高年齢者の特性を左右に並べた図。左は敏捷性・持久性・筋力の3項目、右は筋力・バランス能力・敏捷性・全身持久力・感覚機能・認知機能の6項目で、右側のバランス能力・感覚機能・認知機能が追加分として色分けされている。
旧ガイドラインが「体力の低下」として3つを挙げていたのに対し、新しい指針は身体機能に加えて感覚機能と認知機能を明記した。

旧ガイドラインが挙げていたのは「体力の低下」の3項目でした。新しい指針では6項目になり、バランス能力が加わったほか、「感覚機能及び認知機能」が身体機能と並ぶ形で明記されています。注意力や判断力に関する対策例(注意力や集中力を必要とする作業の作業時間の考慮、複数の作業を同時進行させる場合の負担の考慮)は旧ガイドラインにもありましたが、見出しにあたる特性の列挙には含まれていませんでした。今回、それが正面から書かれたことになります。

同じ方向の変更は他の箇所にも見られます。暑熱環境への対応では、旧ガイドラインが「涼しい休憩場所を整備すること」とだけ書いていたところ、新しい指針は「高年齢者は暑さや水分不足に対する感覚機能が低下しており」と理由を加えています。指針全体を通じて、身体が動く前の段階——気づく、判断する——への配慮が、旧ガイドラインより一段はっきり書かれました。

内容の違い(2)——体力チェックの書き方が具体化した

「高年齢者の健康や体力の状況の把握」の項も、骨格は同じですが、いくつかの文が加わっています。

論点旧ガイドライン新しい指針
対象年齢事業者の項には記載なし(労働者の項で「青年、壮年期から取り組むことが重要」)「身体機能の低下は高年齢者に限られるものではない」として、事業場の実情に応じて青年・壮年期から実施することが望ましいと明記
方法の例フレイルチェック、厚生労働省作成の「転倒等リスク評価セルフチェック票」、事業場に合わせた体力チェックフレイルチェック、身体機能セルフチェック、労働者が自ら把握できるオンラインツール、質問紙による推定、事業場に合わせた体力チェック
評価基準を設ける場合「合理的な水準に設定」「高年齢者が従事する職務内容等に照らして合理的な水準に設定」
情報の取扱いを決める場安全衛生委員会等安全衛生委員会等や労働者の意見を聴く機会等(委員会がない事業場を想定)

評価基準の書き方に「職務内容等に照らして」が加わった点は、実務上の意味が大きいと考えられます。年齢別の一般的な基準を当てはめるのではなく、その作業を安全に行うために何が必要かを起点に基準を組み立てる、という考え方がより明確になりました。

通達が示す体力チェックの範囲

指針と同日に出された労働基準局長通達(令和8年2月10日付け基発0210第1号)は、体力チェックの範囲について次のように述べています。

体力チェックの範囲については、歩行能力等の筋力、バランス能力、敏捷性等の労働災害に直接的に関与するものとし、事業場の実情に応じて全身持久力、感覚機能や認知機能等を含めて差し支えないこと。
「高年齢者の労働災害防止のための指針」について(令和8年2月10日付け基発0210第1号) 5(2)ア

体力チェックの中心は筋力・バランス能力・敏捷性といった身体機能であること、そのうえで感覚機能や認知機能を含めてよいことが、行政文書として示されました。旧ガイドラインの時代には、体力チェックに認知面を含めることの位置づけは明示されていませんでした。

その他の変更点

上記のほかにも、本文の比較で確認できる変更がいくつかあります。

リスク低減措置の優先順位
リスクアセスメントの項に、危険な作業の廃止・変更、工学的対策、管理的対策、個人用の装備の使用という4段階の優先順位が新たに書き込まれた
職場環境の改善と教育の組み合わせ
職場環境の改善等を安全衛生教育と併せて行うことが望ましい、という一文が加わった
熱中症への対応
「病院への搬送や救急隊の要請を的確に行う体制」から、「早期発見のための体制整備、重篤化を防止するための措置の実施手順の作成、関係作業者への周知」へ書き換えられた
業務の提供
業務のマッチングにあたり「職場環境の改善を進めるとともに」「継続した業務の提供に配慮すること」が加わった
治療と就業の両立
「治療と仕事の両立を考慮すること」から、治療と就業の両立支援指針(令和8年厚生労働省告示第28号)にもとづく取組へ書き換えられた
ストレスチェックの記述
旧ガイドラインにあった常時50人以上の事業場でのストレスチェック実施の一文は指針本文から外れた(改正法によりストレスチェックは全事業場で義務化される予定)

一方、変わっていない部分も多くあります。体力チェックが「望ましい」であって義務ではないこと、健康や体力の情報は「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」にもとづいて扱うこと、休業からの復帰時に休業前後の体力チェック結果を比較することが有効であること、などは旧ガイドラインから引き継がれています。

実務で見直すべき点

旧ガイドラインにそって取組を進めてきた事業場であれば、体制や職場改善の多くはそのまま活かせます。見直しが必要になりやすいのは、次の点です。

旧ガイドラインから新しい指針への移行を示した図。左に2020年3月の安全衛生部長通達にもとづく旧ガイドライン、右に2026年4月適用の労働安全衛生法第62条の2にもとづく新しい指針を置き、引き継がれた部分と新たに加わった部分を分けて示している。
5つの措置の枠組みは引き継がれ、根拠の格上げと、特性の列挙・体力チェックの具体化が加わった。

とくに2番目と3番目は、指針が変わったことで初めて明文の根拠が得られた部分です。筋力やバランス能力の測定を続けてきた事業場であれば、そこに反応や注意の状態を把握する項目を加えることが、指針の列挙した6つの特性に沿った次の一歩になります。何をどう測るかは、指針が求めるとおり、安全衛生委員会等の審議を踏まえて事業場ごとに決めることになります。

  • 本記事は2026年9月時点の法令・指針・通達にもとづいています。最新の情報は厚生労働省の公表資料をご確認ください。
  • 「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」は2026年4月1日に廃止されています。本記事での引用は、新しい指針との比較のために廃止前の本文を参照したものです。
  • 測定は健康状態の診断ではありません。医学的な判断は産業医等の専門職が行います。

よくある質問

改正労働安全衛生法で、高年齢者の労働災害防止は義務になったのですか。
努力義務です。労働安全衛生法第62条の2第1項は、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を「講ずるように努めなければならない」と定めています。罰則はありません。ただし、第2項にもとづく指針と第3項にもとづく指導・援助の根拠が法律に置かれた点が、通達にもとづいていた旧ガイドラインとの違いです。
旧ガイドラインにそって作った社内規程は作り直す必要がありますか。
5つの措置の枠組みは引き継がれているため、全面的な作り直しは必要ないと考えられます。ただし、根拠として「エイジフレンドリーガイドライン」を参照している箇所は、廃止された文書を指したままになるため、「労働安全衛生法第62条の2」と「高年齢者の労働災害防止のための指針」に改める必要があります。あわせて、作業管理で考慮する特性や体力チェックの評価基準の記述を、新しい指針の表現に合わせて見直すことをおすすめします。
旧ガイドラインと新しい指針で、内容はどこが一番変わりましたか。
作業管理で考慮すべき特性の列挙です。旧ガイドラインは「敏捷性や持久性、筋力といった体力の低下等」としていましたが、新しい指針は「筋力、バランス能力、敏捷性、全身持久力、感覚機能及び認知機能の低下等」と6項目を挙げ、感覚機能と認知機能を明記しました。また、体力チェックの評価基準について「高年齢者が従事する職務内容等に照らして」設定することが加わりました。
体力チェックに認知機能の測定を含めてもよいのですか。
指針と同日に出された労働基準局長通達(基発0210第1号)は、体力チェックの範囲を筋力、バランス能力、敏捷性等の労働災害に直接的に関与するものとしたうえで、事業場の実情に応じて全身持久力、感覚機能や認知機能等を含めて差し支えないとしています。どの項目を測るかと評価基準は、安全衛生委員会等の審議を踏まえて事業場ごとに決めることが望ましいとされています。
改正法の施行日は一律に2026年4月1日ですか。
主要部分は2026年4月1日施行ですが、内容によって施行日が分かれています。厚生労働省の概要資料によれば、ストレスチェックの全事業場への義務化は公布後3年以内に政令で定める日、化学物質の通知義務違反に対する罰則は公布後5年以内に政令で定める日とされ、個人事業者等に関する規定の一部は2027年1月1日や2027年4月1日の施行です。高年齢者の労働災害防止に関する第62条の2と指針は、2026年4月1日から適用されています。

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