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Occupational Safety

体力チェックを導入したのに、転倒や接触の災害が減らない。その原因は、測っている範囲にあるかもしれません。

労働安全衛生

2026年4月1日、「高年齢者の労働災害防止のための指針」が適用されました。改正後の労働安全衛生法第62条の2第2項にもとづくもので、これに伴い、それまで運用されてきた「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」は廃止されています。

新しい指針を受けて、健康診断に体力チェックを追加する企業が増えています。一方で、測定して数値は出たものの、それをどう現場に活かすかで止まっているという声も聞きます。

この記事では、指針が事業者に求めている内容を条文にそって確認したうえで、一般的な体力チェックが測る範囲との差を整理します。

指針が事業者に求める5つの措置

指針の「第2 事業者が講ずべき措置」は、次の5項目で構成されています。事業場の実情に応じて、実施可能なものから積極的に取り組むことが求められています。

  1. 安全衛生管理体制の確立等(経営トップによる方針表明、リスクアセスメントの実施)
  2. 職場環境の改善(設備・装置の導入、高年齢者の特性を考慮した作業管理)
  3. 高年齢者の健康や体力の状況の把握
  4. 健康や体力の状況に応じた対応(就業上の措置、業務のマッチング)
  5. 安全衛生教育

体力チェックが関わるのは3番目です。ただし指針は、把握して終わりにすることを想定していません。4番目で、把握した状況にもとづいて就業上の措置や業務の割り当てを検討するよう求めています。

指針は「認知機能」を明示している

注目すべきなのは、2番目の「高年齢者の特性を考慮した作業管理」の記述です。指針は、考慮すべき高年齢者の特性を次のように列挙しています。

筋力、バランス能力、敏捷性、全身持久力、感覚機能及び認知機能の低下等の高年齢者の特性を考慮して、作業内容等の見直しを検討し、実施すること。
高年齢者の労働災害防止のための指針 第2の2(2)

筋力やバランス能力と並んで、感覚機能と認知機能が挙げられています。さらに同じ項では、作業管理上の配慮として次の点にも触れています。

  • 注意力や集中力を必要とする作業について作業時間を考慮すること
  • 注意力や判断力の低下による災害を防止するため、複数の作業を同時進行させる場合の負担や、優先順位の判断を伴う作業に係る負担を考慮すること

つまり指針は、身体機能だけでなく、注意力・判断力といった認知面の変化も、災害防止の観点から考慮の対象としています。

一般的な体力チェックが測っている範囲

一方、現在の体力チェックで広く使われているのは、次のような測定です。指針も具体例として、フレイルチェック、転倒等のリスクを確認する身体機能セルフチェック、質問紙による推定などを挙げています。

測定項目測るもの主に関連するリスク
2ステップテスト下肢筋力・歩行能力つまずき、歩行時の転倒
片脚起立テスト静的バランス能力立位保持中のふらつき
立ち上がりテスト下肢筋力移乗・段差昇降時の不安定さ
柔軟性測定関節可動域無理な姿勢による腰痛
握力測定全身筋力の指標把持の失敗、全身的な体力低下

いずれも確立された手法で、実施のしやすさという点でも優れています。中央労働災害防止協会の「エイジアクション100」など、無償で使える職場改善ツールも整っています。

ただし、この一覧には共通点があります。指針が挙げた6つの特性のうち、筋力・バランス能力・全身持久力は測れますが、感覚機能と認知機能は対象になっていません。

災害はどの段階で起きているか

転倒や接触の災害が起きる場面を分解すると、身体が動く前の段階があります。

  1. 危険な状況が視界に入る(見る)
  2. それが危険だと気づく(認知する)
  3. どう避けるかを決める(判断する)
  4. 実際に身体を動かす(反応する)

体力チェックが対象にしているのは、主に4番目の「動く」段階です。筋力があり、バランスが保てても、1〜3の段階でつまずけば身体は間に合いません。段差に気づくのが遅れれば、下肢筋力が十分でも転倒します。

指針も安全衛生教育の項で、「高年齢者にみられる転倒災害は危険に感じられない場所で発生していることも多い」と指摘し、わずかな段差など周囲の環境に注意を払う意識づけの有効性に触れています。危険を危険として認識できるかどうかが、災害の分かれ目になるという見方です。

体力チェックの位置づけと、実施上の留意点

指針は体力チェックについて、継続的に行うことが「望ましい」としています。義務ではありませんが、実施する場合の考え方は具体的に示されています。

  • 身体機能の低下は高年齢者に限らないため、事業場の実情に応じて青年・壮年期から実施することが望ましい
  • 対象となる労働者に、目的をわかりやすく丁寧に説明し、事業場としての方針を示すこと
  • 評価基準を設ける場合は、従事する職務内容に照らして合理的な水準に設定すること
  • 評価基準を設けない場合は、本人の気づきや、業務上考慮すべき点の検討に活用すること
  • 安全作業に必要な体力を定量的に測定する手法と評価基準は、安全衛生委員会等の審議を踏まえて構築することが望ましい

最後の点は重要です。指針は、測定手法と評価基準を事業場ごとに労使で議論して決めることを想定しています。既製の測定をそのまま当てはめるのではなく、自社の作業に必要な能力は何かを起点に組み立てるという考え方です。

情報の取扱い

健康や体力の状況は、労働者の心身の状態に関する情報にあたります。指針は、「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」を踏まえた対応を求めています。

本人同意
体力の状況の把握にあたり、本人の同意の取得方法を事業場内手続として定める
不利益取扱いの防止
個々の労働者に対する不利益な取扱いを防ぐ仕組みを設ける
委員会での取扱い
安全衛生委員会等に報告する際は、個人が特定されないよう医師等の意見を集約または加工する
方針の見直し
運用の途中で、事業場の方針を適宜見直す
  • 本記事は2026年9月時点の指針にもとづいています。最新の情報は厚生労働省の公表資料をご確認ください。
  • 測定は健康状態の診断ではありません。医学的な判断は産業医等の専門職が行います。
  • 「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」は2026年4月1日に廃止されています。過去の資料を参照する際はご注意ください。

よくある質問

高年齢者の体力チェックは義務ですか。
義務ではありません。2026年4月1日に適用された「高年齢者の労働災害防止のための指針」は、高年齢者を対象とした体力チェックを継続的に行うことが「望ましい」としています。なお指針そのものは、改正後の労働安全衛生法第62条の2第2項にもとづく努力義務の枠組みの中で定められたものです。
エイジフレンドリーガイドラインは今も有効ですか。
「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」は、2026年4月1日に「高年齢者の労働災害防止のための指針」が適用されたことにより廃止されました。現在参照すべきは新しい指針です。なお新指針は「エイジフレンドリー指針」とも呼ばれています。
何歳から対象にすべきですか。
指針に一律の年齢基準はありません。むしろ、身体機能の低下は高年齢者に限られないことから、事業場の実情に応じて青年・壮年期から体力チェックを実施することが望ましいとされています。対象範囲は、作業内容や災害の発生状況を踏まえて事業場ごとに判断することになります。
測定した結果は、どこまで本人に伝えるべきですか。
指針は、事業者と労働者の双方が体力の状況を客観的に把握することを前提としています。本人へのフィードバックは想定された運用です。ただし健康や体力の状況は心身の状態に関する情報にあたるため、本人同意の取得方法や取扱いの手続を、安全衛生委員会等の場を活用して事業場内で定める必要があります。
評価基準は設けたほうがよいですか。
指針はどちらの運用も想定しています。基準を設ける場合は、高年齢者が従事する職務内容に照らして合理的な水準に設定することが必要です。基準を設けない場合は、本人の気づきを促し、業務に従事する上で考慮すべき点を検討する材料として活用することが考えられるとされています。

出典

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